(1)前年度までの旅費で調査したマクデブルク大聖堂等ドイツ語圏聖堂の彫刻作品における笑顔に関連して『山形大学大学院社会文化システム研究科紀要』に論文を発表し、ゴシック時代の聖堂に笑顔表現が誕生し、それは主に最後の審判図像と悪魔図像の笑顔であることを明らかにした。 (2)29年度末に科学研究費報告書を出版した。そこでは、ユーモア美術の誕生に笑顔モティーフが関連していることを解明し、笑顔の多彩な意味を以下のように具体的に分析した。祝福された笑顔(最後の審判図像における天国に入る人々の笑顔)、悪魔の笑顔、現実の人物の笑顔、死の擬人像の笑顔、道化の笑顔などである。特に悪魔におけるトゥティウィルスの笑顔とその意味、さらにデューラーによる肖像素描における笑顔の意味などを詳細に分析した。その上、中世末期における写本挿絵、ミゼリコルディア、版画、板絵など多様な美術媒体におけるユーモア美術をテーマ毎に分析した。具体的には、「あべこべの世界(価値の逆転)」による笑い、特に「アリストテレスとフィリス」という男女の逆転による笑い、さらに遊戯テーマ、スカトロジー、性、動物を利用したテーマ、諺の造形化による笑いなどである。それらをまとめて、各美術媒体間の関係、さらに各媒体の特徴等を分析した。具体的には、ミゼリコルディアと写本挿絵ではユーモア表現のテーマが異なることをそれら媒体の特異性から分析した。美術媒体の特質が笑いのテーマを規程するのである。最後にユーモア美術を受容した社会層が「半識字者」であろうと提案し、ユーモア美術の機能としては、風刺とともに教訓的な意味も有する、両義的なものであったことを提示した。 (3)それらの成果をもとにして、山形美術館で美術講座「美術で笑う」を行い、笑うことを目的としたユーモア美術の多様なテーマに関して具体的な作例をあげながら、分析を行い、市民に披露した。
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