平成30年度はアメリカに海外調査に行き、ボストン美術館でマネの《皇帝マク シミリアンの処刑》の第1ヴァージョンを、メトロポリタン美術館(ニューヨーク)で《死せるキリストと二人の天使》《エスパダの衣装を着たヴィクトリーヌ嬢》を調査し、資料収集を行った。帰国後、平成27、28、29年度の調査研究の成果も合わせて、マネの絵画と検閲という問題を政治、社会、美術制度という観点から総合的に考察した。 その結果、マネが第二帝政に批判的な立場から政治的な主題を取り上げ、やや曖昧な暗示的なやり方で表現していること(特に《皇帝マクシミリアンの処刑》《テュイルリーの音楽会》)、スキャンダルを起こしつつもヌードや娼婦のテーマに積極的に取り組み、それ以前にはない女性表象を行ったこと(特に《草上の昼食》《オランピア》《フォリー=ベルジェールのバー》)、さらに聖性を帯びるべきキリスト像をレアリストのまなざしで扱って批判されたこと(特に《死せるキリストと二人の天使》《兵士たちに侮辱されるイエス》)などが判明した。 それらの成果は、平成30年に刊行した著書『エドゥアール・マネ、西洋美術史の革命』(KADOKAWA)の中に組み込んで公表した。本書は、日本で初めてのマネに関する本格的なモノグラフで、「過去からマネへ」「マネと「現在」」「マネから未来へ」という三部構成となっている。西洋絵画史を原作や複製を通して学習し、イメージの自由自在な組み合わせによって、独自の冷徹なレアリスム絵画を発表したマネ芸術の意義、さらに後世の画家たちへの多大な影響について論述した。
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