研究期間の2年目にあたり、作品調査と並行して成果の発表・刊行を複数行った。特に十四世紀やまと絵の様式の変化を考える上で重要な「遊行上人縁起絵巻」に関し、東京文化財研究所・津田徹英氏による研究プロジェクトに合流する形で現存する諸本の詳細な調査撮影を集中的に行った。 今年度の成果として主要なものに(1)『天皇の美術史』第三巻、(2)『絵巻マニア列伝』、(3)『病草紙』、の刊行がある。(1)では、十二世紀の後白河天皇から、十四世紀の花園天皇を経て、十六世紀の後奈良天皇に至るまでの絵巻を中心とする絵画とのかかわりを俯瞰した。天皇という視座から中世絵画を再考することで、古典様式再生の連続性が重要な論点として浮上した。特に花園天皇周辺の絵師・高階隆兼の研究からは、十四世紀の絵画活動が室町時代に規範性を帯びるに至った様相が明確となった。(2)は、古代から近世にいたる絵巻の蒐集や鑑賞に関し、史料に記された評言に注目することで、絵画の需要史的側面を追究した。(3)では、後白河天皇周辺で制作された同作品の構図の類型を分類してその特徴を述べ、これらが十四世紀の『絵師草紙』に影響を与えていることを指摘した。 口頭発表では、台湾で行われたモンゴル時代のアジア美術の比較考察を行う学会において、花園天皇と北宋皇帝による絵画コレクションや制作との比較を行い、元寇の後、十四世紀のアジアにおいて展開した絵画の傾向を国際的な視点から分析することを試みた。
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