研究課題/領域番号 |
15K02134
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
高岸 輝 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (80416263)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 十四世紀 / 絵巻 / 天皇 / 縁起 |
研究実績の概要 |
研究成果の中核となるのは、「天皇と中世絵巻」(『天皇の美術史3 乱世の王権と美術戦略』)である。ここでは、十二世紀から十六世紀にいたる天皇周辺の絵巻制作と享受の実態を、現存作品と史料に基づいて精査した。全3章からなり、1「花園天皇と絵巻の時代」では、十四世紀前期における絵巻制作の中心に居た花園天皇の日記を核に、後白河院が十二世紀後半に制作した絵巻の伝存状況と鑑賞記録、高階隆兼による絵巻等の制作過程を述べ、2「『看聞日記』の造形世界」では、同日記にみる十四世紀絵画作例の受容を考察した。3「洛中洛外の絵巻ルネサンス」では、応仁の乱後における京都の復興と、洛中寺社の縁起絵巻再生を詳述した。 これと並行して、後白河院周辺での成立である「病草紙」現存二十一場面の構図分析を行い、構図が十四世紀の高階隆兼へと継承されていることを指摘した。さらに、十四世紀から十五世紀に原形が成立した「道成寺縁起絵巻」に関して、十六世紀の南都絵所周辺において整理・統合が進められて新たな表現を生みだしたことを明らかにしている。 以上の検討を通じて、十四世紀の権力と絵師の関係を軸に、中世絵画史全体を俯瞰し、その制作と享受の構造的把握を従来以上に推し進めることかできたものと思われる。 そのほか、学会発表、招待発表を通じて、日本美術、特に中世絵巻における最新の研究状況と課題を国際的な視野で発信するとともに、2017年7月には、フランスにおいて『看聞日記』の研究会を実施し、研究方法と成果の国際的共有を目指した。また、十四世紀に成立した「後三年合戦絵巻」に関して、これが近世を通じて転写し続けられ、近代日本画にもその図様が流入していることを述べ、中世絵画史にとどまらない、日本美術史全体から見た十四世紀の位置づけを探る作業を行っている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
約3か月間、米国ニューヨークを拠点に研究を進めたため、国内美術作品の調査および史料の調査に空隙が生じたものの、米国東海岸のボストン美術館、メトロポリタン美術館、フィラデルフィア美術館等における主要な日本中世絵画作品の調査を十分に行うことができたことは、その欠を補うものといえる。 また、和歌山県立博物館で2017年秋に開催された「道成寺と日高川展」に参画することで、紀州地域や南都絵所の作例につき検討を深めることができたのも大きな収穫であった。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、十四世紀を軸とする中世絵画史の再構築という見通しは、ほぼ達成されており、今後は、個別の作品研究及び絵師研究を通じて、この見通しを補強することを目指す。 俯瞰的な視点と、個別具体的な視点を総合する形で、本年度中に単著の執筆に着手し、次年度の刊行を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
2017年に約3か月間の海外研究を行ったため、次年度使用額が生じた。十四世紀に関する絵画作品の調査旅費として使用予定。
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