最終年度にあたり、後続の科学研究費(基盤B、18H00628)「十四世紀を中心とする縁起・絵伝の制作組織および様式系統の総合的研究」(研究代表者:髙岸輝、2018~2021年度)に発展的継承を果たすべく、関係する作品の調査と成果の発表を並行して行った。 国際的発信としては、国立台湾大学から刊行された「蒙古的衝撃―花園天皇與十四世紀的日本繪畫」において、十四世紀の花園天皇周辺で、中国の皇帝を模した美術サークルの形成を論じた。『看聞日記』研究会は3年目にあたり、ドイツ・ハイデルベルク大学において、フランス、オーストラリアからの研究者を招き、日本中世美術に関する記録の精読・研究と翻訳作業を進めた。また、米国フリーア美術館にて、同館に所蔵される「槻峯寺建立修行縁起絵巻」に関する調査研究の歩みを口頭発表した。 『西湖憧憬―西湖梅をめぐる禅僧の交流と十五世紀の東国文化―』図録掲載の「室町・戦国時代の西湖憧憬―旅する眼に映った日本の「西湖」」では、中世後期における、中国の古都、杭州と西湖のイメージの広がりを、絵巻等の絵画から探った。琵琶湖畔の寺院を、西湖畔の寺院になぞらえ、その風景を理想化して絵巻に描いたことを指摘した。また、「戦国時代における霊場歴覧と縁起・勧進・絵画」では、戦国時代の公家・三条西実隆による天王寺・高野山巡礼の記録を分析し、彼が拝見した寺社の宝物由来と、同時代における寺社復興・勧進活動との関わりを述べた。 上記とともに、十四世紀に数多くの転写本が制作された「遊行上人縁起絵巻」諸本の調査を継続しており、2019年には関係する展覧会が開催されることから、これにあわせて研究成果を公表する予定である。
|