研究課題
基盤研究(C)
本研究は、十四世紀のやまと絵諸作品の調査分析と、文献資料を用いた制作環境の検討を総合することで、中世絵画史の転換の様相を明らかにした。特に、十四世紀前期の花園天皇周辺における肖像画や絵巻受容、中期におけるやまと絵制作工房の再編と古代絵巻の復興、後期における絵巻転写の広がりについて、新たな見解を示した。十四世紀における政治的変革と、画壇の大きな変動の相関関係が、明確になったものと考える。
日本美術史
日本美術史において、十四世紀は一種の空白期であった。それは、この時期の絵画制作の工房や様式、作品注文主に変動が大きく、総合的に把握しにくい状況に起因し、古代的な美術史の流れの上に語られる十三世紀、近世美術への流れで考える十五世紀、との狭間とされてきた。本研究の最大の意義は、十四世紀の複雑な状況を、朝廷や将軍家というパトロン層、土佐派の発生、絵巻の様式変化、といった具体例に即して整理・統合し、見通しを示すことで、前近代日本の美術史を総合的に捉える視点を提供した点にある。