本研究は、18世紀フランス・タピスリー芸術の歴史に名を残す、フランソワ・ブーシェ(1703-1770年)の王立ゴブラン製作所におけるタピスリーの下絵制作活動について解明することを目的としている。本年度は、主に3つの 研究成果を示すことができた。第一に、フランスやアメリカをはじめとする欧米タピスリー研究者、美術館キュレーターとともに、タピスリー芸術に関する共著をフランスのレンヌ大学出版より上梓した。そこに所収される仏語論文では、ブーシェと同時代の画家とのあいだのタピスリーの下絵制作をめぐる競合関係について、王立ゴブラン製作所と王立ボーヴェ製作所とのあいだの対抗関係の枠組みのなかで読み解くことで、新たな知見が提示された。第二に、ブーシェがルイ15世の寵姫ポンパドゥール夫人のために制作し、王立絵画彫刻アカデミーのサロンにも展示されたゴブラン製作所のタピスリー下絵《日の出》と《日の入り》(ロンドン、ウォレス・コレクション所蔵)の下絵に関する総合研究を行った。そこで得られた新知見は仏語論文としてまとめられ、学会誌に掲載された。第三に、前述の《日の出》と《日の入り》に関する論文のなかで掘り下げて論じることのできなかった、着想源をめぐる考察を深め、その成果をまとめた仏語論文が公刊された。同論文はまた、筆者が本基盤研究の一環として、2016年5月にローマのフランス・アカデミー創立350年周年の折に開催された国際発表においてフランス語による口頭発表で提示した内容に基づき、そこでの研究者間の議論を踏まえて執筆されたものでもある。以上、最終年度は、これまでの調査研究を欧語論文のかたちで発表することによって、ブーシェを中心とする18世紀ゴブラン製作所、さらには、フランス近世タピスリーの基礎研究の発展に寄与する成果を国際的に提示することができた。
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