研究課題/領域番号 |
15K02139
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
増記 隆介 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (10723380)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2018-03-31
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キーワード | 画師 / 水墨画 / 山水図 / 唐宋絵画 / 仏画 / 李思訓 |
研究実績の概要 |
今年度は、主として補助事業者のこれまでの研究活動で得た図書資料類及び写真類を活用して、唐代末から五代、すなわち10世紀の中国とわが国の絵画史上の交流について研究を進めた。特に水墨表現受容の担い手であるわが国の画師たち、就中史料にあらわれる9世紀から11世紀の画師たちに関する記録、説話等を整理検討し、それらと唐から五代、北宋期の画史や画論にあらわれた画家たちの記述を比較検討することで、わが国における画師の評価のありようが当該期の中国の画史画論類のそれを祖述しながら形成されたものであることを明らかにした。このことは、画師の活動に対する評価という側面においても、水墨技法受容の場が用意されていたことを示している。 また、具体的な作例としては、密教の灌頂の折に用いられる「山水屏風」の中でも神護寺本の構図や図様に、五代・南唐の画家董源の「寒林重汀図」(黒川古文化研究所)との共通性があることを見いだした。これは、南唐において日本の山水画が李思訓の作と見なされていたという米ふつ『画史』の記述と董源の着色山水図の画風が李思訓を学んだとする『宣和画譜』等の評価に照らし合わせたとき、その共通性の由来が唐代の李思訓を源流とする関係にあることを推察させる。このような観点から平安前期の絵画史における中国絵画の受容のありようのモデルケースの一つを抽出することによって、本研究の課題である仏教絵画における水墨技法の受容の体現者である画師たちの活動の具体的様相を次年度以降に明らかとしたい。 また、関連研究として従来鎌倉時代後期の作とされていた「絹本著色童子経曼荼羅図」(智積院)が、五代から北宋初期の請来画に基づいて、12世紀末に平清盛周辺で描かれたものであることを図像や技法の観点から明らかにし、平安時代後期の請来仏画の受容の具体相を解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題については、交付決定が平成27年10月であり、当初は不採用と判断して、補助事業にかかる調査研究を中止した。よって当初の予定より進捗がやや遅れているものの、10月以降、課題の一部については、既存の資料等を用いて着実に進めており、また、海外調査等についても、ボストン美術館等、すでに調査先との交渉を進め、受け入れの許可等を得ている。よって28年度は当初予定にさらなる海外調査等を実施することで予定通りに進捗できるものと考えている。すなわち、本来27年度に実施予定であった台北・国立故宮博物院及び中国・浙江省調査については、28年度に実施する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、わが国の仏教絵画において、中国・中唐期に成立、発展した水墨技法がどのように受容されているのかを具体的に明らかにすることに主眼がある。よって作品の微細な表現技法が明らかとなるような詳細な観察及び調査が必要であり、28年度は調査を中心としながら、海外、国外の対象作品の詳細な調書作成や写真記録作成を進めていきたい。 あわせて、28年度以降には、これらの技法を受容した主体である、わが国の上皇、天皇、上級貴族、僧、画師等の史料を収集し、それらの仏画が成立する歴史的な様相をも明らかにしたい。さらに中国の史書、画史、画論、著録、詩、詞、筆記類等を収集、検討し、仏画に対する評価や審美眼の変遷を明らかにすることによって、いかに水墨技法が仏画に流入していったのか、その具体的様相を明らかにし、それらの成果について、国際ワークショップ及び報告書等で公にすることとしたい。また、国内及び海外調査については、調査機関との折衝を進めており、許可の下りた機関から逐次調査を実施していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該研究の科学研究費交付決定が、平成27年10月であり、同4月においては当該補助事業を中止せざるを得ないと判断した。また、他の研究題目で出光文化福祉財団及び鹿島美術財団よりの助成金を得たことによってそれらの助成金の速やかな執行を実施するため、27年度は支出を伴わない、既存資料等の見直しや再検討による研究の進展を期した。このため、次年度使用額が生じたものである。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度使用しなかった額については、27年度予定していた海外(台北・国立故宮博物院及び中国・浙江省)及び国内(京都国立博物館)調査をより綿密かつ詳細なものとして、28年度予定の調査(アメリカボストン美術館、高野山金剛峰寺等)とあわせて実施し、速やかかつ内容のある調査研究の進展を図りたい。
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