研究課題/領域番号 |
15K02139
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
増記 隆介 神戸大学, 人文学研究科, 准教授 (10723380)
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研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
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キーワード | 孔雀明王像 / 白描画 / 大理国 / 水墨 / 着彩 / 北宋 |
研究実績の概要 |
今年度は、基盤研究の最終年度に相当し、日本国内、台湾、アメリカにおいて学生を伴った調査を実施するとともに、日本国内及びハンガリー、アメリカにおいて研究成果の口頭発表を行った。また、研究成果の一部を論文及び学術書として公刊した。 調査については、6月及び2月に京都国立博物館において、北宋「孔雀明王像」(仁和寺)、平安「十二天像」のうち「風天像」の調査を実施した。前者は、水墨技法の発展を受けて成立した北宋における写実的な仏教絵画の頂点となる作品であり、本研究課題の中心となる作品である。後者については、画中の火炎表現について着彩と水墨技法の融合という観点から調査を行なった。これらの成果については、国内外の口頭発表で公表した。国外においては、11月に台湾国立故宮博物院において12世紀大理国で描かれた「梵像図巻」、南宋時代の牟益「搗衣図巻」他を調査した。前者は着彩の仏教尊像表現と背景の水墨による山水表現の共存という点において、日本と同じ中国の周縁部における12世紀の両技法の展開を考える上での重要作例である。後者については、白描と淡墨による夕夜景表現に特質があり、線描主体の絵画における夜景表現という困難な絵画的課題を達成した作例として、水墨表現の可能性の広がり考察するための主要作例である。3月には米国において、メトロポリタン美術館所蔵品及びボストン美術館所蔵品の調査を実施するとともにコロンビア大学における国際シンポジウムで研究課題の成果を口頭発表した。台湾調査及びアメリカ調査には、学生を同行し、前者においては台湾大学芸術史研究所の学生と研究交流を行い、後者においては、コロンビア大学、プリンストン大学等の学生との研究交流を実施し、当該研究費によって、時代を担う研究者の学術交流を果たせた成果は特筆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当該基盤研究については、交付決定が半年ほど遅れたことにより研究の開始自体が遅延したという事情がある。これについては、調査等の日程を調整するなどし、遅延を解消する方策をとったことにより改善された。また、当該研究は研究代表者研究を推進するのみならず、研究協力者としての学生の海外調査や海外における学生との学術交流等を図る目的も有しており、これを達成するために、台湾やアメリカの大学との交渉を行った。これらについては当方の予定が必ずしも受け入れられず、日程等の遅延を生じる場合があったが、全て実施にいたり、大きな成果を得た。 あわせて、本年度は、研究代表者の論文執筆、研究発表等の依頼が殺到し、これらについては全て当該基盤研究の成果を公開するものであり、その全てに対応した。なお、それらの中には未だ公刊されていない図書が含まれる。このため報告書執筆の時間が割かれ、報告書の公刊については、所定の手続きを行なった上で30年度中に実施することとした。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は、東アジアにおける絵画表現の基本をなす、着彩と水墨という二つの技法に注目し、その相関関係について、仏教絵画を主として考察するものであり、国内外における実作品の調査を基本とし、その結果に基づき考察を行い多くの成果を公表してきた。このような視点は仏教絵画のみならず、世俗画を含めた東アジアの絵画全体に敷衍できるものであることが研究を通して明らかになってきている。今後もこのような視点から東アジア絵画史全体を俯瞰する研究を推進したい。また、本研究は協力者としての学生の調査への参加を実施しており、その成果として、作品の現物に接すること、また調査先の学芸員や寺社の宝物担当者等と接することにより美術史研究者として必要な現場での経験を積むとともに、海外調査においては台湾やアメリカにおける大学院生との研究、学術交流を図る貴重な場ともなっている。科学研究費については、次世代を育成することも重要な課題であると考えており、このような学生による海外調査と学術交流を推進してゆきたい。 報告書については、刊行が遅れており、これを早急に実施する。原稿については、学生にも分担執筆を依頼し、現在原稿を取りまとめている。学生による調査等の成果を公刊することも次世代育成のために重要であると考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は、当該基盤研究の成果にかかる研究発表を国内外において四回実施するとともに論文を三篇(うち二篇は未公刊)、著書を二冊上梓した。これを受けて、その成果は広く公表されることとなったが、そのため全体の報告書作成のための時間が大幅に減少した。このために報告書公刊が遅延しており、次年度使用額は報告書作成と公刊、そのために必要な再調査の実施等に使用する。
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