本研究は、ルネサンス期にエステ家による高度な宮廷文化が開花したフェッラーラにおける美術活動に関して、個々の画家や個別の作品研究ではなく、君主の世代間、複数の画家間、ジャンル間等、多様な関係性という新たな観点からの総合的理解を目的とするものである。とりわけ複数の君主の治世にわたって制作が継続された美術プロジェクト、複数の世代の画家たちによって受け継がれた要素、大壁画と板絵や写本彩飾画との相互的な関連、フェッラーラ宮廷を特徴づける祝祭・演劇と美術活動の関連といった、様々な関係性の網目から、エステ宮廷の美術の特徴を新たに抽出することを目指した。 本年度は昨年度に引き続き、エステ宮廷における美術活動について、テクストと図像双方の一次資料の収集と整理をおこなった。ついでスキファノイア宮殿「12カ月の間」装飾壁画と板絵、写本装飾画の相互関係に関する研究をおこなった。モチーフ、構図等の相互的な引用関係の事例の調査からは、スキファノイア壁画の下段の構図をそのまま利用した写本彩飾や、上段や中段のモチーフを部分的に引用した板絵、版画、写本彩飾画の存在が確認された。併せて、それらの関係のフェッラーラ派の文脈における意義についても検討した。ついで、フェッラーラ宮廷における祝祭・演劇と美術の関係に関する研究をおこなった。エルコレ・デ・ロベルディ作品における舞台美術との関係を扱ったJ. マンカの先駆的な研究を参照しつつ、フェッラーラにおける演劇実践や宮廷祝祭の状況が、どのような形で美術作品と相互関係を作りだしたのかについて、一次資料を用いながら分析した。現実の祝祭を飾った凱旋門や凱旋車、活人画といった要素がいかに美術作品に取り入れられているかについても考察した。
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