研究課題/領域番号 |
15K02145
|
研究機関 | 目白大学 |
研究代表者 |
小林 頼子 目白大学, 社会学部, 教授 (10337636)
|
研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
|
キーワード | インド洋風画 / ムガール帝国 / アクバル帝 / ジャハーンギール帝 / シャー・ジャハーン帝 / 宗教的寛容 / グローバル文化 / サファヴィー朝 |
研究実績の概要 |
第2年度にあたる今年度は、インドの洋風画に研究の焦点をあて、研究課題(アジア各国洋風画の比較研究)の深化に努めた。具体的には、インド美術史の中から、洋風画制作が盛んであったムガール帝国のアクバル帝(在位1556-1605)、ジャハーンギール帝(在位1605-1627)、シャー・ジャハーン帝(在位1628-58)治世下における洋風画制作の実際を文献調査、重要作品熟覧の両面から把握すべく努めた。 アクバル時代には、宗教的に自由な政策をとったこともあり、芸術・文化は実に多様な展開を見せた。なかでも、ペルシャに亡命していた父フマーユーン(在位1530-40;1555-56)の薫陶もあり、ペルシャのサファヴィー朝同様に、イエズス会の布教団がもたらした西洋銅版画の影響を強く示す絵画が制作されている。深奥感の表現、描写モティーフの立体感を示唆する陰影法、イコノグラフィーともに、新たな洋風画様式が一挙に花開き、ジャハーンギール帝の代に至って、一層の成熟を迎えた。 その様相は、質の高いインド洋風画を多数所蔵するニューヨークのメトロポリタン美術館、ピエポント・モーガン図書館、イギリスのロンドンの大英博物館、ヴィクトリア・アンド・アルバート美術館での出張調査で、総計50点以上に及ぶインド細密画を実見し、つぶさに確認することができた。2015年度のペルシャ洋風画調査の折に、ペテルスブルクの東洋写本研究所で幾つかのインド洋風画を熟覧する機会があったが、それらの作品と併せ、多くの重要作品を実物にあたって調査することができたのは大きな収穫であった。 外来の文化的事物の受容にあたっては、為政者の興味と関心の如何・文化政策の方向性、宗教的寛容度がきわめて重要なファクターになることを改めて確認するとともに、それがその後のグローバル文化の展開とどのように関わるか、新たな課題を得た。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アジア各国の洋風画の比較をし、そこから相互の受容法の異同の確認,その異同を生んだ背景の比較分析を目指す本研究は、4年度にわたる計画で進めている。基本的な方針としては、日本、ペルシャ、インド中国で制作された洋風画を対象に、 1.関連文献の収集とそれら文献内容の理解と分析、2.そこから拾い出された重要作品のリスト化、3.主として出張調査によるそれら作品の閲覧と分析、4.現地研究者との情報交換、5.得られたデータのデータベース作成、6.調査全体の総合、を掲げている。 1については、第1、第2年度において、ペルシャ洋風画、インド洋風画の関連文献の収集・内容把握をほぼ終了し、現在は、相互比較をしながらの分析を実施している。2については、1の調査から作品リストを作成し、質の高い重要作品がまとまって収蔵されている美術館等を特定し、ペテルスブルク、アムステルダム、ロンドン、チューリッヒ、ベルン、ニューヨーク等に所在する美術館・博物館・図書館・研究所等の現地踏査による作品熟覧をできる限り広範に試み、作品の様式的特徴、洋風画のソースとなった西洋絵画・版画作品の把握に努めてきた。また、出張先では可能な限り現地の研究者・学芸員と議論する機会を持ち、情報の収集・確度の向上を図った。 ちなみに第1年度は、東洋文庫にて、来日中の研究者(グライフスヴァルト大学ミヒャエル・ノルト教授)の講演を中心として研究会の機会を設け、関連の研究者との議論の場を持った。また、ニューヨーク大学アブ・ダビ校で開催された宗教文化のグローバル化をテーマとするシンポジウムに招聘され、研究発表に行った。さらに、その折に、同シンポジウム開催者の一人、望月みや准教授(ニューヨーク大学)との議論を経て、第2年度目に、文化のグローバル化をテーマとして、以下に挙げる共著の刊行に繋げた。
|
今後の研究の推進方策 |
第3年度は、中国の洋風画を主要テーマとし、イエズス会の布教団が舶載した文化的情報・事物の確認と、それらの中国における受容を、文献調査と現地踏査を平行して進める予定である。 中国の場合は、キリスト教布教が始まる明時代末と清代と、二つの時期に分けて研究を進める。前者は、イタリア人宣教師マッテオ・リッチら、イエズス会宣教師が中心となって西洋文化全般が明朝宮廷に伝えられ、中国人研究者とともにそれらを《坤輿万国全図》などの漢籍により紹介するという大事業が進められた時期にあたる。後者は、イタリア人宣教師カスティリオーネが仲介役を果たしながら、幾何学的遠近法などの西洋画法が積極的に取入れられ、その動きが、海禁政策がとられるようになって以降も途絶えなかった清朝初期にあたる。後者の時期には、伝統的な民衆版画・蘇州版画において、西洋様式が積極的に試みられてもいた。第3年度においては、こうした中国洋風文化研究に関する一般的な共通理解を、細部にわたり確認・分析し、具体的作例に沿ってその実態を明らかにすることを目指す。 また、中国文化の強い影響下にあった日本が、こうした中国の洋風文化の受容から何を学びとったかも分析対象とし、日本の洋風文化の受容が、西洋伝来と中国伝来の二重構造のもとに進んでいた実態を明らかにしたい。 ちなみに、中国洋風画の所在に関しては不明の点が多いため、中国文化研究を専門とする研究者の協力を仰ぐ心積もりである。 さらに、第1、第2年度の研究範囲ではあったが、なお熟覧に至っていないインド洋風画の作例も、第3年度で出来る限り補足的に調査する予定である。具体的には、パリのギメ美術館、アメリカのボルチモア美術館が所蔵する40点余に上る作品の熟覧を考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
主として、年度末の支払金額が年度内の処理に間に合わなかったため、次年度使用額が生じた。具体的には、1.勤務校の年度末校務と入試の山場を避けて、2月後半から3月中旬にかけて実施した出張調査費用の内、現地支出分6万円強が次年度の会計処理になった、2.データベース指導の支払いを、作成者(学生)の作業終了を見届けながら執行することとなったため、支払いが年度末にずれ込み、結局、次年度の会計処理となった、という事情があった。この部分を除くと、未使用額は端数となる。
|
次年度使用額の使用計画 |
年度末の支払い金額についてはすでに必要書類はすべて整っているので、科研費の平成29年度会計処理が可能になり次第、執行の予定。
|