研究最終年度の上半期は、ブーシェ《ユピテルとカリスト》(1744年、モスクワ・プーシキン美術館)をめぐる図像についての調査を進めた。研究代表者は29年3月に、ブーシェ《ディアナの水浴》(1742年、ルーヴル美術館所蔵)と挿絵本についての個別論文を発表し、この絵画が「ユピテルとカリスト」の図像伝統に視覚的影響を受けていることを指摘した。画家はその2年後に、別の作品《ユピテルとカリスト》を描き、また晩年にも再びこの主題を取り上げている。そこでブーシェ以前の絵画や版画、挿絵において、この「ユピテルとカリスト」図像がどのような展開をしたのか調査し、そこにブーシェ作品を位置付けた。29年8月にはロシア、プーシキン美術館およびエルミタージュ美術館にて現地調査を行い、本図像および下半期に調査を開始したヴァトー作品との関連図像を実見した。 下半期は、ヴァトーが1714-15年頃に描いた《ユピテルとアンティオペ》(《ニンフとサテュロス》、ルーヴル美術館所蔵)についての基礎調査を進めた。これは本来前年度に行う予定だった研究課題であるが、研究初年度にテロの影響で海外での現地調査ができなかったため、進捗がずれ込んでしまったものである。これまでの調査で、挿絵本における異なる複数の主題のクロスオーバーが画家の着想や構想に少なくない影響を与えていることが判明し、ヴァトーの作品もその可能性が極めて高いと考えている。国内での基礎調査を経て、30年2月にはイギリス(ウォーバーグ研究所等)、フランス(ルーヴル美術館および絵画資料室等)での現地調査を行った。これによって本作品についての貴重な文献・図像資料を入手することができた。この個別研究の成果については、本年7月に学会での口頭発表、本年度中に論文として研究成果を発表する計画である。
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