本研究は2018年2月刊行の『中国山水画史研究―奥行き表現を中心に―』において、おおむねその成果を公表できた。本年度は補遺として以下の活動を行った。1)2019年2月16-18日 蘇州版画研究会(広島県、海の見える杜美術館)参加 2)2019年2月28日-3月4日 洛陽調査(中国河南省洛陽市で魏晋~隋唐墳墓および龍門石窟魏晋南北朝~初唐期窟調査)3)2019年3月9-11日 CIHA(Comite International d'Histoire de l'Art)colloquium in Tokyo参加 過年度調査の補遺として、2)洛陽の古墓出土品および龍門石窟初期造像窟を調査した。いずれも魏晋南北朝期から隋唐時期にかけての人物群像表現および山水表現等から、奥行き表現の展開をたどる資料を調査収集した。1)の蘇州版画調査は明清時代の景観表現を多数含む蘇州絵画の奥行き表現を調査し、宋代以降の奥行き表現の展開を調べるものである。魏晋南北朝隋唐のテーマから時代は下がるが、次の課題への足がかりとする。3)は東京国立博物館で開催された国際美術史学会で、東アジア美術をテーマとしたものであり、資料・情報収集のため参加した。特に朝鮮半島の絵画史研究関連発表で、本研究テーマ関連の発表があった。またホームページの英文化を進め、今年度の研究成果「山西水泉梁北斉墓壁画について」も随時掲載予定である。 2015年度から始まった本研究は、在米北朝遺品、国内関連作品、中国での壁画作品の調査によって、魏晋南北朝時代に進展した奥行き表現の展開、および唐代に成立した山水画の奥行き表現に至る過程の、具体的様相の一端を示すことができた。これまで国内の工芸品や敦煌壁画の一部から推測されるに過ぎなかった奥行き表現の成立過程を、具体的遺物で示す初めての試みであり、今後「山水之変」の成立過程を考える指標となるであろう。
|