本研究は近代の日伊関係を通して「美術」の概念とその社会性を再考すべく、工部美術学校教師として明治初期に6年間日本に滞在した彫刻家ヴィンチェンツォ・ラグーザが残したパレルモ市立図書館所蔵の未公刊史料をデータで持ち帰り、リスト化、翻刻、プリントアウト、紙ベースでのファイリング作業を進め、本研究に関係する史料の内容を概ね理解することができた。 これまでの調査・研究の成果を公表すべく、2018年度第2回明治美術学会例会(8月4日、京都工芸繊維大学)において「未公刊史料によるヴィンチェンツォ・ラグーザの日本の美術・工芸観」を発表した。 不明点を解決すべく、今年度もパレルモに滞在し、シチリア州立中央図書館で調査・研究を続けるとともに、「ヴィンチェンツォ・ラグーザ、清原玉」国立美術高校を訪問し、清原玉による「古器物写生画」他を閲覧させていただくことができた。その結果、不明だったさまざまな点を解決する糸口を得ることができた。 またイタリアよりも先んじてジャポニスムが流行したパリにも滞在し、東洋ギメ美術館、工芸技術博物館、装飾芸術美術館などを見学し、フランスとイタリアにおけるジャポニスム受容の相違を考察するための手がかりを得ることができた。また、ラグーザの日本美術・工芸品コレクションは、ラグーザ独自の視点をもっての蒐集もなされていたと結論づけることができたように思う。 かつて東京文化財研究所の所蔵だったが、現在は東京国立博物館の所蔵となっている清原玉による「古器物写生画」を閲覧させて頂くこともできた。ここに描かれた工芸品のほとんどはローマのルイジ・ピゴリーニ先史民族誌博物館に所蔵されており、閲覧によってその有無も確認することができた。これらの調査結果はしかるべき研究雑誌に公表すべく投稿する予定である。
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