研究課題/領域番号 |
15K02157
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
羽田 ジェシカ 福岡大学, 人文学部, 非常勤講師 (60719102)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 台湾近代美術 / 中国近代美術 / 東洋 / 美術交流 / 日本中国台湾関係 / 華人 / 移動する画家 / 閔文化 |
研究実績の概要 |
二年目の平成28年度は一次文字資料と作品の調査を行い、画家たちが地域の境界を超えて活躍した軌跡を考察し、さらに日本側の「東洋」に回帰する流れの関係資料の蒐集に努めた。東アジアの画家たちが最も日本画壇と深く関わった1910-30年代に焦点を当て、当時の美術状況および歴史社会背景に関する原始資料を精査した。研究調査の成果のひとつは、伝統を近代作風で再生することを試みた台湾出身画家陳澄波や劉錦堂などと関係がある、日本と中国画壇における伝統復帰運動の相互関係の考察である。文人画再評価における日本と中国との相互関係を突きとめ、文学専門である甲斐勝二(福岡大学教授)等と共同で陳師曽の中文論述『文人画の価値』の訳注を執筆し、この文献の美術史的位置付けおよび大村西涯との関係を明らかにした。また、北京に渡った後の劉錦堂の画業を新たに見つけた資料で再評価し、彼の出身地である台湾で論文を出版した。さらに、日本の影響を受けて廈門からシンガポールに移住し、東南アジア近代美術に多大な貢献を果たした南洋美術専科学校を創立した林学大とその弟子を中心として、近代華人美術が併せ持っていた地域性と普遍性を明らかにした。これに関する論文は2017年6月に『芸術学研究』にて刊行する予定である。作品調査による成果として、台湾近代絵画に比類ない影響を与えた塩月桃甫の未発見作品を見出すことができた。第二の故郷として台湾に移住し、当地にて1921年から1945まで美術を教え、1927からは台湾美術展覧会の審査を務めながら創作に励んだ塩月だが、戦後は日本に引き揚げたため台湾時期の作品のほとんどは散逸したか水害や火災で破壊されており、現存する作品は貴重である。今回の調査で見出した作品に関する論文は提出済みであり、平成29年後半に『台湾博物館学刊』で刊行される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
二年目の平成28年度は、計画通り一次文字資料と作品の調査を行い、関係資料の蒐集に努めた。調査は日本と台湾に重点を置き、1)画家たちが創作の元とした書画伝統の考察、2)未見作品に関する情報の蒐集に励んだ。そのため、日本時代の重要作品が作者不明のまま台湾博物館の倉庫に眠っていることを突き止め、作品の作者や内容、制作背景を一次資料で裏付けることができた。また、劉錦堂の画業と台湾や日本の関係を見直すこと、林学大とその弟子たちを例に異郷が第二故郷となる華人画家の作品の本質を見極めることもできた。
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今後の研究の推進方策 |
三年目には引き続き原始資料を蒐集、整理、分析し、東アジアの視座から近代美術における伝統の再創造、画家の移動による各地域美術の相互関係などを考察する。海外の国際学会で英語の発表をし、情報交換をする(AAS-in-Asia, ソウル)。また、「移動する画家と東アジア近代美術の形成」というテーマで国際シンポジウムを企画し、11月に福岡市にて開催する。予定される参加者は、台湾からの顔娟英(中央研究院、台湾大学)、蔡家丘(台湾師範大学)、邱 Han-ni(中央研究院)、韓国からの金正善(東亜大学)、中国からの蔡濤(広州美術学院)、日本の後小路雅弘(九州大学)、ラワンチャイクン壽子(福岡アジア美術館)、呉孟晋(京都博物館)、林田龍太(熊本県立美術館)、などである。漢民族でありながらも日本の文化や美術教育の薫陶を受けた植民地台湾出身画家、日本に留学した中国画家、台湾を自らの故郷とした日本画家、朝鮮、中国を舞台とする日本画家など、激動の時代を生きた人々の活動を汎東アジアの視点から考察する。日本と海外の研究者が一堂に会し、十分な時間をかけて発表と意見交換を行うことにより、近代東アジアという枠組みの中で、「移動する」画家たちが各地域の美術の形成や展開に果たした役割を明らかにすることを目標とする。会議後は各参加者による発表内容を一冊の論文集にまとめて公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度に、本科学研究費のテーマに直接関わる国際シンポジウム「移動する画家と東アジア近代美術の形成」(平成29年11月18日、於福岡アジア美術館を予定)を開催予定であるが、ここにできるだけ多くの国内外の研究者を招聘し、多角的視点からの研究発表と充実した討議ができる環境を整えるため、平成28年度の研究費はシンポジウムの準備資金として多く備えておくことが望ましい。したがって平成28年度の使用額は抑えた。
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次年度使用額の使用計画 |
「移動する画家と東アジア近代美術の形成」というテーマで国際シンポジウムを企画し、平成29年11月に福岡市にて開催する。以下の研究者を招聘する予定である。台湾からの顔娟英(中央研究院、台湾大学)、蔡家丘(台湾師範大学)、邱 Han Ni(中央研究院)、韓国からの金正善(東亜大学)、中国からの蔡濤(広州美術学院准教授)、日本の後小路雅弘(九州大学)、ラワンチャイクン壽子(福岡アジア美術館)、呉孟晋(京都博物館)、林田龍太(熊本県立美術館)、などである。現代の国境を超えた、戦前の画家たちの活動を汎東アジアの視点から考察し、意見交換を行う。各参加者による発表内容は一冊の論文集にまとめて公表する。
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