平成29年度(最終年度)は、前年度に引き続き一次資料の蒐集・分析を行うとともに、東アジアの視座から戦前の台湾関係の画家たちの活動を考察し、彼らの移動によって生まれた越境する美術の様相を明らかにした。研究成果は国際学会での講演や、学術誌・図書への論文発表により公表した。さらに、国際コロキウムを主催し、主役である台湾関係の画家たちを、東アジアの移動する画家、という枠組みで他地域の画家と比較討議した。主要な研究成果は以下の通りである。 1. 【絵画作品の発見と発表】 台湾の近代美術形成を牽引した塩月桃甫(1886-1954)の、在台湾時代初期の作品一点を台北で発見し、作品散逸の問題が深刻な塩月研究に新たな展開をもたらした。発見を学術論文にまとめ、学術誌に公表した。台北の李梅樹記念館での展覧会「炎方風土」 (2018年3月27-4月29日)に協力し、同作品の初披露を果たすとともに、複数の個人蔵塩月作品の同展覧会への貸出を実現させた。2. 【国際的な場における研究成果の公表】 2017年6月24-27日にソウルで開催されたAAS-in-Asia国際学会で論文発表、また同年12月21-22日に釜山美術館で行われたシンポジウムにて招待講演を行った。後者の講演内容は、同シンポジウム論文集により公表されている。3. 【国際コロキウムの開催と論文集の刊行】 「移動する画家と東アジア近代美術の形成」というテーマで国際コロキウムを企画し、2017年11月18日に福岡アジア美術館にて開催(主催)した。国内外の第一線で活躍する研究者により論文10篇が発表された。代表者は基調報告および研究発表を行った。この課題に関心をもつ研究者が一堂に会し、近代東アジアという枠組みの中で、「移動する画家」たちが各地域の美術の形成や展開に果たした役割を明らかにした。各参加者による発表内容を一冊の論文集にまとめて公表した。
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