日本絵画の彩色材料の中で、白色材料としては鉛白・胡粉・白土の3種の顔料が古くから用いられてきた。この中で、鉛白と胡粉はその用途や主たる利用時期が大きく異なっていることが明らかになりつつある。そこで本研究では、各時代を代表する日本絵画を非破壊・非接触の科学的手法によって調査し、用いられている白色顔料の種類と用途を明確にするとともに、時代ごとの鉛白・胡粉の利用目的や適用範囲を整理し、これまで漠然と認識されていた日本絵画における鉛白・胡粉の利用状況の実態を明確にすることを目的とした。 平安期~鎌倉期の仏画として、国宝の普賢菩薩像(東博)、孔雀明王像(東博)、阿弥陀聖衆来迎図(有志八幡講)、山越阿弥陀図(禅林寺)について彩色材料調査を行ったところ、すべて鉛白が使われていることが確認された。 日本絵画との材料・描写の比較検討を行うために、高麗仏画の大作・楊柳観音像(鏡神社、重要文化財)の材料調査を行ったところ、使われている白色顔料は鉛白だけであることが確認された。 鉛白から胡粉への転換期に近い室町時代の絵画として、狩野元信筆の酒伝童子絵巻(サントリー美術館、重要文化財)を調査したところ、白色顔料としては胡粉が使われているが、緑色顔料の下層に鉛白と思われる白色顔料の存在が見出された。また、日月山水図屏風(金剛寺、国宝)では平滑な白色部分に胡粉、盛上げの白色部分に鉛白という、これまでの理解とは逆の利用が見出され、白色顔料の転換点に近い時期での鉛白・胡粉の利用状況について、新たな知見を得ることができた。 これまでに蓄積した膨大な調査研究成果(日本絵画200作品以上)について解析を進め、出光文化福祉財団 出版助成により『Color&Material ―日本絵画の色と材料―』を出版した(2018年3月)。
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