本研究は、現代も皇室の式正行事に用いられながら、一般にはほとんど目にする機会がない、日本の伝統的な宮廷装束や調度の実作例の所蔵調査を通して、かつての宮廷の物質文化の実像に可能な限り迫ること、およびその成果を博物館という場を通して、広く紹介することを目的として実施した。 研究の前提として、国文学や日本史学の領域では、文献や絵画資料に基づく宮廷の典礼研究が重ねられているにもかかわらず、作品を研究対象とする美術史学においては、同種の研究がほとんど手つかずであるという状況があった。そこで、本研究では、該当作例の所蔵調査を行い、さらには寸法や仕様などの基礎的な情報を記載した調書を作成することを根幹作業とした。 かつて京都御所で用いられていた装束や調度の多くは、帝室博物館の流れを汲む、東京・奈良・京都の国立博物館に収蔵されていることは知られていたが、その実態は各館においても明確に把握されていなかった。そこで、東京および奈良国立博物館については、収蔵品目録と画像データベースによる該当作品の目録化を進め、京都国立博物館では、225点の実作品を調査し、採寸および構造調査を行った。また、そのほかの該当作品所蔵機関の作品群については、これまでに発刊された作品目録などから同様にリスト化を進め、それらを装束と調度に区分し、428件を簡易なデータベースとしてまとめた。これらの調査の結果、現存する作品の多くが近代の作品であり、近世以前に遡る作品は少ないことが改めて浮き彫りとなった。 本研究の成果は、国際博物館会議ミラノ大会服飾国際委員会における研究発表および論文(2016年)、京都国立博物館における名品ギャラリー展示「宮廷の装束」(2016年)同じく特集展示「御所文化を受け継ぐ 近世・近代の有職研究」(2018年)によって公開した。特集展示では鑑賞ガイドを作成するとともに、関連講座を二回開講した。
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