本研究では「データ」と「もの」を同時につくりあげていくデジタルファブリケーションの概念を活用して、「視点の移動」をテーマとした映像表現のために、撮影から上映体験まで一対となった身体装着型の360度全方位映像表現の研究を行った。全方位映像の撮影には複数台の小型カメラにセンサとモータを用いた電動スタビライザーを組み合わせ、移動しながらでも自動制御によって安定した全方位撮影が行える装置の研究などを進めた。その装置によって撮影された全方位映像はヘッドマウントディスプレイによる没入型映像体験を通して、身体と知覚の新しい経験をもたらせることを目指し、メディア表現における新たなものづくりの理論と方法論を構築した。 2016年以降、ハード面、ソフト面とも全方位映像に関する環境が急速に整いはじめてきたなか、3Dプリンタを用いて既存製品のパーツなどをカスタマイズすることで、より目的に則した装置を短期間で制作することが可能であった。日々、技術革新が進んでいく状況において、「データ」と「もの」を同時につくりあげていくデジタルファブリケーションの概念を活用して、装置を作りながら撮影を行っていくワークフローは非常に有効であった。 全方位映像は全ての方向を撮影するため、撮影時に機材や撮影者が映り込んでしまうという問題があるが、ドローンやテレプレゼンスロボット、モーションコントロールシステムなどを用いて遠隔操作による全方位撮影を試みることによって大幅に解消することが出来た。最終年度は、装置の制作と撮影を同時に行う方法論を実践しながら、音響効果も組み合わせた全方位映像作品を制作し、ヘッドマウントディスプレイを通した体験会を開催した。特にドローンによって撮影された上下の視点移動のなかに体験場所自体の映像も取り込むことにより、体験者の没入感を高め、新しい経験をもたらすことが出来た。
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