研究課題/領域番号 |
15K02172
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
藤木 秀朗 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (90311711)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 映画 / ドキュメンタリー / メディア / エコロジー / 環境問題 / 3.11以後 / 自然環境 / 廃棄物 |
研究実績の概要 |
本研究は、ドキュメタリー映画が環境問題をどのように描写し扱ってきたかを明らかにすることを目的としている。より具体的には、公害、土地開発、ごみ、食料、地球温暖化、「放射能汚染」といった問題をドキュメンタリー映画がどのように表象してきたのか、さらにはそうした映画がどのように上映され、社会的にどのような役割を担ってきたのかを考察することを狙いとしている。 平成28年度は、3本の論文を発表した。「映画上映による市民のネットワーク化――3.11後の社会運動における映画とメディア」(英語による共著書所収)、「命を問題化する――3.11原発災害に関するドキュメンタリー映画」(英語による共著書所収)、「アントロポセンの脱自然化―3.11原発災害後のドキュメンタリーにおけるランドスケープ、動物、場の感覚」(日本語学術雑誌)である。また、7月に「文化を媒介にした環境問題」(名古屋大学)と題した国際シンポジウムを企画し、自分も発表者の一人として、「アントロポセンの脱/自然化――3.11原発災害後のドキュメンタリー」と題した口頭発表を行った。加えて、オーストラリアで開催されたカルチュラル・スタディーズ学会(シドニー)で「グローバルな想像可能性――放射能廃棄物の映画的表象」(英語)と題した口頭発表を行った。 これらの発表では、「放射能汚染」を中心に、社会運動とメディア、生命と生活、動物を含めた自然環境、廃棄物の表象を調査・分析してきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、3本の論文を発表し、2回の口頭発表を行うだけの成果は上がっている。また、国際シンポジウムを主催し、同じ問題関心を抱く世界の研究者と意見・情報交換を行なうことができた。そして、そのシンポジウムの成果を6本の研究論文として、学術雑誌『JunCture 超域的日本文化研究』の特集「文化に媒介された環境問題」にまとめ公刊することも行なった。さらに、そのシンポジウムおよび学術雑誌で発表した原稿をもとにした自分の研究論文が、アメリカを拠点とするエコクリティシズムの学会、ASLE(Association for the Study of Literature and Environment/文学・環境研究学会)の機関誌ISLEにも掲載されることが決定している。 一方、前年度のこの欄にも記載したように、当初のテーマ設定では、調査の進行とともに問題が予想以上に多岐にわたっているとわかったので、今回のプロジェクトでは福島第一原理力発電所事故後の状況に関連づける形で、環境問題に関するドキュメンタリーを扱う方向に軌道修正している。
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今後の研究の推進方策 |
上記のように、当初のテーマを軌道修正し、福島第一原理力発電所事故後の状況に関連づける形で、環境問題に関するドキュメンタリーを扱うことにした。 今年度は、ウラン鉱山から核廃棄物に至るまでの原子力に関わる物質のグローバルな流通を、ドキュメンタリーがどのように表象しているか、そしてそうした作品がどのように流通し上映されているかという点を調査し分析する。また、放射能汚染と食料の関係についても調査を進めたい。 発表としては、8月にアルゼンチンのブエノスアイレスで開かれる、ドキュメンタリーをテーマにしたVisible Evidence国際学会の口頭発表が受理決定している。10月には、アメリカのミネソタ大学で招待講演を行うことになっている。また、11月でチリのサンティエゴで開かれるKnolwedge/Culture/Ecologies学会での口頭発表にも申し込んでいる。上記のように、ESLEという国際学術雑誌に論文が掲載されることが決まっているが、8月~10月にかけて行なう口頭発表をもとに、別の学術雑誌にも投稿したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
大きく二つの理由がある。一つには、年度内の刊行を期待していた復刻版『記録映画作家協会会報』(不二出版)などの大型文献の出版が遅れて購入できなかったことがある。また、当初は海外での口頭発表を二回以上行なうことを計画していたが、たまたま当年度に自分の研究テーマに一致するテーマでシンポジウムを自分の大学で開催することが決まり、そちらでの発表を優先させた。そのために海外での口頭発表は、12月のシドニー大学で開かれたカルチュラル・スタディーズ学会での発表にとどまった。そのほか、次年度に山形国際ドキュメンタリー映画祭が開かれることになっているので、そちらに資金を回したいということもあった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度は、当年度に購入できなかった復刻版『記録映画作家協会会報』(不二出版)などの主要文献を購入する。また、山形国際ドキュメンタリー映画祭に参加するとともに、当映画祭が運営しているライブラリーでも調査を行いたい。海外での口頭発表については、ドキュメンタリー研究学会としては世界でもっとも大きいと言えるVisible Evidence Conference(8月にアルゼンチンにて開催)への参加とそこでの口頭発表が決まっている。また、11月にチリで開催予定のKnowledge/Culture/Ecologies学会にも、日本とアメリカの研究者とともにパネルでの口頭発表を申請中である。さらに、10月後半にはアメリカのミネソタ大学で講演する予定にもなっている。これらの調査・研究発表に助成金を活用させていただく計画である。
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