本研究は、ドキュメタリー映画が環境問題をどのように描写し扱ってきたかを明らかにすることを目的としている。より具体的には 、公害、土地開発、ごみ、食料、地球温暖化、「放射能汚染」といった問題をドキュメンタリー映画がどのように表象してきたのか、 さらにはそうした映画がどのように上映され、社会的にどのような役割を担ってきたのかを考察することを狙いとしている。 平成29年度は、2つの国際学会でそれぞれ1回口頭発表し、アメリカの大学で招待講演を1回行った。また、1本の論文の英語書籍への掲載が決定した。具体的には、8月にブエノスアイレス(アルゼンチン)で行われた、ドキュメンタリーに関する学会、ヴィジブル・エビデンス学会で、ドキュメンタリー映画が世界規模で行われている原子力エネルギーの生産・流通・廃棄の過程をどのように表象しているかについて発表した。また、11月には、サンティアゴ(チリ)で行われた、「知識/文化/エコロジー」カンファランスで、ドキュメンタリーが特定の国や地域の境界を超えて広がる放射性物質をどのように捉えてきているのかについて発表した。この月には、ミネソタ大学で招待講演を行い、ドキュメンタリーが不可視の放射線が広がる福島やその他の地域で風景、動物、場所をどのように捉えているかについて話した。これを基にした論文が、香港大学出版会から刊行される共著書に掲載されることが決定した。 これらの発表と論文では、「放射能汚染」に偏っているのは確かであり、研究課題の他のテーマにも取り組む必要がある。しかし、「放射能汚染」は、公害、土地開発、ごみ、食、地球温暖化のいずれの問題にも関係しており、3.11原発事故後の状況におけるこれらの問題にドキュメンタリーがどのように取り組んでいるかという課題としては順調に進んでいると言える。
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