研究課題/領域番号 |
15K02177
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
野角 孝一 高知大学, 教育研究部人文社会科学系教育学部門, 講師 (50611084)
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研究分担者 |
平 諭一郎 東京藝術大学, 学内共同利用施設等, 講師 (10582819)
荒井 経 東京藝術大学, その他の研究科, 准教授 (60361739)
松島 朝秀 高知大学, 学内共同利用施設等, 准教授 (60533594)
高林 弘実 京都市立芸術大学, 美術学部, 講師 (70443900)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 絵金 / 復元 |
研究実績の概要 |
絵金(絵師金蔵、弘瀬洞意)は、幕末の狩野派で学んだ土佐の絵師である。祭礼を飾るという独自の様式を確立した絵金の『芝居絵屏風』が開帳される高知県各地の夏祭りは、全国的にもユニークな祭りとして注目されている。高知の各地で開催される絵金祭りに飾られる芝居絵屏風は絵金だけでなく弟子や孫弟子なども制作していたが、それも昭和の初期までで現在では新しく制作されることはなかった。屋外に設置されるため損傷の激しいものもあり、画像が紙に印刷されたものなどで代用するなど工夫がなされている状態である。また作品は新しく発見される一方で、消失したものも少なくない。さらに地域文化の継承者の減少もあり、祭り自体も含めた文化の継承が危ぶまれている。 そういった状況の中で、本研究では高知県香南市香我美町西川にある峯八王子宮に収められている絵金の作品と考えられる屏風作品の調査を行った。目視では雨や動物による損傷で画面の約3割しか残されていない。しかし20年程前に撮影された画面の約7割程度が残っている同作品の写真が現存している。そこで本研究では現存する絵金の作品と考えられる屏風や過去に撮影された写真、絵金の他の作品群を手掛かりとして、峯八王子宮に収められている屏風作品の想定復元制作を進めている。研究成果は絵金祭りなどで発表する予定である。 また、高知に点在する絵金作品の支持体の調査を行っており、所蔵する地区による差異の検証している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
峯八王子宮に収められている屏風作品は雨や動物による影響で画面の7割が損傷しており、その支持体や裏打ち紙の紙片や樹木の葉、枝などと共にビニールシートに覆われた屏風の下部に堆積している。屏風は支持体や屏風の骨自体も損傷が激しいため、今後どのように保存していくか検討していく必要がある。 支持体については破壊分析を行い、支持体に使用された材料の特定を現在進めている。また支持体の他に裏打ち紙や骨縛りに用いられた紙なども併せて分析している。材料の特定ができれば、これまであまり行われてこなかった絵金作品の支持体など材料の情報が蓄積され、今後の研究の発展に寄与できると期待できる。さらに可能であれば屏風に用いられた支持体を再現し、想定復元制作に活用したいと考えている。 想定復元制作では20年程前に撮影された画面の約7割程度が残っているため、大まかな構図は把握できる状態である。同作品の写真をデジタル化し、現存する屏風と同じ大きさに拡大したものを拠り所とし、さらに現存する屏風や絵金の同じテーマの作品を参考としながら、大下図の作成を行っている。 高知に点在する絵金作品の支持体の調査では、所蔵先によって作品の大きさや支持体である紙の継ぎ方に、ある一定の法則を発見することができ、場当たり的に制作されたものではなく、所蔵先に合わせて意図的に屏風の形態を変えていたことがうかがえる。しかしまだ一部の作品のみを調査対象としていないため、今後も調査を継続していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
想定復元制作では、大下図を完成させることを最優先としたい。20年程前に撮影された同作品の写真をデジタル化したことによって、作品の大まかな構図は把握できたが、細かな筆致や、描かれた人物像の着物の柄などは判別が難しい。また損傷によって全くわからない箇所があるため、峯八王子宮の関係者への聞き取りや、同じテーマで描かれた絵金の作品の人物描写を参考とするため、それらの調査を行う予定である。大下図の完成後、本紙に下図を転写し、彩色を行っていく。そのため色材についても分析を行い情報の蓄積を行いたい。先行研究では絵金作品では変色しやすいもの、現在使用できない色材で描かれていることから、分析結果次第では屏風に使用されている色味を重視し、変色しにくいとされる絵具を用いて制作を行うことも想定している。 峯八王子宮に収められている絵金によって制作された屏風作品は関係者のみが把握しており、これまでその存在は知られていなかった。想定復元制作の展示の他、研究の概要も併せてパネルによる展示を行い、その成果を広く発表することによって、高知の土着の文化が注目され、高知の貴重な文化を継承する上で、非常に重要な役割を果たすことが期待される。 またこれまで絵金作品の描写に関する研究はなされていたが、支持体の紙の継ぎ方に着目してきた研究はない。高知に点在する絵金屏風の調査を継続し、新しい視点による絵金作品の体系化を行うことで、絵金作品の研究のさらなる発展に寄与したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、屏風の支持体の再現を行う予定であったが、今年度に持ち越したため。またその他の費用も今後必要になるであろう経費のために出来るだけ節約したため。
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次年度使用額の使用計画 |
現在、模本となる屏風の支持体の材料分析を行っている。それを受けて、支持体の再現を行う費用に充てたい。
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