本研究の目的は、1960年代から1980年代までのマレーシアにおける現代美術の変遷を検証しながら、欧米中心的な美術史や美術言説から排除されてきたアジア美術の同時代性を考察することである。 平成29年度のマレーシアの調査では、1960年代から2010年代までに制作されたマレーシアの抽象画を展示する展覧会や、1960年代に活躍した新世代のアーティスト・グループ、Grupの回顧展、また同グループのメンバーだった作家ヨー・ジンレンの個展を見学し、調査対象としている時代の作品を実見できたことは有意義な機会となった。また、1979年にマラ工科大学で開催されたインディジネス・アートのセミナーに関する資料を同大学で収集することができた。このセミナーは、1971年に開催された「民族文化会議」に触発され開催されたもので、マレーシア独自の美術、特にマレー系作家がイスラーム文化を美術に反映していく上で重要な役割を果たしたセミナーである。他にも、非営利組織のマレーシア美術アーカイブセンターやギャラリーが所有する文献を調べ関連する資料を収集した。 シンガポールでは、国立図書館で資料収集を行い、国立美術館では19世紀にヨーロッパへ渡り絵画を学んだ画家、ラデン・サーレとホアン・ルナの展覧会を見学し見識を深めた。 日本国内においては、森美術館と国立新美術館が共同で開催し、福岡アジア美術館にも巡回した「サンシャワー:東南アジアの現代美術1980年代から現在まで」展を見学し、それに関連するシンポジウム等に聴衆として参加した。マレーシアだけでなく、東南アジアの現代美術についての動向や変遷について知見を得ることができた。 研究成果として、昨年福岡アジア美術館で収集した資料を基に、アジアの現代美術におけるアイデンディティに関する論文をカルチュラル・スタディーズ学会の学術誌に投稿した。
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