障害者の芸術表現をどのように位置づけて政策的に支援していくべきかを検討するため、先駆的に取り組んでいる福祉施設(NPO法人コーナス(大阪市)、NPO法人クリエイティブサポートレッツ(浜松市)など)を訪問し、代表者に現時点での課題や成果についてインタビュー調査を実施した。また、芸術表現活動からは一定の距離を保ち、独自の取り組みを展開している福祉施設(株式会社ぬかつくるとこ(岡山県都窪郡)、NPO法人カプカプ(横浜市)など)を訪問し、なぜアート系の団体と位置づけられることを避けようとするのか、日本における動向をどのように捉えているのかについても、代表者にインタビュー調査を実施した。 各団体の代表者が異口同音に述べたのは「障害者の芸術表現に関する支援事業の増加など著しい盛り上がりを感じるが、2020年以降はどうなっているか不透明である」ということであり、政府や自治体の当該事業の継続可能性に疑問を抱いていることであった。2018年6月には「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」が公布・施行されたものの、作品の評価や支援する人材の育成方法などに関する具体的方策については未だ検討課題である。 さらに、障害者の美術作品を「アール・ブリュット」と称するかどうかの判断は、各地の福祉施設や展覧会主催者に委ねられており、議論は未成熟なままである。本研究の目標とした、芸術表現を通じた社会的包摂へのプロセスを明確にするため、今後も研究を継続していく所存である。
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