研究課題/領域番号 |
15K02190
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研究機関 | 明治大学 |
研究代表者 |
須永 恒雄 明治大学, 法学部, 専任教授 (70106590)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 差別 / パロディー / 頽廃芸術 / 人種 / 正常異常 / アールブリュット |
研究実績の概要 |
タボリの主要主題でもあるカテゴリー的区別への視点の固定に根ざす差別意識の現われの一つとしての、芸術ジャンルの古典的枠組みを拡大する視点が、アール・ブリュットの概念を認知することによって齎されるが、その顕著な一例をなすスイスの芸術家A.ヴェルフリを取り上げた論考を発表したが(スイス文化論を扱う書籍に所収)、この演劇人の直接の主題ともなっている人種差別のみならず、正常異常の区別、ひいては人間中心的な世界観への留保にまで広がる柔軟なものの見方の可能性をそれは開くものといってよい。
人間理性に必ずしも至上権が与えられない限界状況も同じ関連から一つの可能性のある人間の様態として認めてこれを考察し反省する視点が、初年度の研究主題の一つとしていた作品『食人鬼』に認められるが、それについてさまざまの差別意識を調べる文脈内で触れることができた。その応用例の一つとして『白男と赤顔』の障碍者の、愚鈍と表裏一体をなす叡智を考察して、その結果は大学紀要論文として発表した。
2017年9月にようやく懸案の出張調査の予定を果たすことが出来たが、広義のアール・ブリュットに数えられるA.クビーンの資料を、その晩年の住居を元に成立して美術館を訪れて見聞した。また、ベルリンのタボリ・アルヒーフに資料調査が出来たが、限られた時間内で、戯曲「M]についてのドキュメント記録のAV資料を鑑賞する機会を得た。未だ未整理の資料のごく一部の閲覧に限られたがこれは今後さらに補足の必要がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
代表作の呼称に値する『我が闘争』とその先行作との詳細な比較をなお実行する必要があること、また最近、詳細な註釈を付して、あくまで研究書としての体裁から公刊を許されるに至ったヒトラーの〈我が闘争〉との、パロディー的な箇所の比較検証のためににはなお厖大な時間を要すること、さらには『M』もまた原作を古典に有するが、その反転を以て成り立つことを比較検討する必要があること、等々、この演劇人の、広義のパロディー的手法を具体的詳細にあたって確認するのに時間を要することから遅滞が生じている。 じっさいの舞台の見聞や、映像資料やさまざまの紙媒体のドキュメントのの閲覧にはさらなる出張の必要があるため、またその範囲を、ナチスのいわゆる「頽廃芸術」の禁忌の対象となった芸術家にまで広げる必要があるために、研究の進行が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
さらに必要な資料の蒐集の為、また舞台上演に立ち会う為、さらなる出張を果たしたい。もし可能であれば、ウィーンのユダヤ博物館、ベルリンのタボリ・アルヒーフ以外にも、「頽廃芸術」とされたノルデの美術館(ゼービュール)、またもしか機会が整えば、最近アール・ブリュットのグッギングの美術館についての書物を上梓したG.ローとを、また、ある意味でタボリと好対照をなすジーバーベルクを訪問することも視野に入れている。 遅れの理由に挙げた、『我が闘争』とその原典との、また『M』とその原典との、それぞれ比較対照を、可能な範囲で、試みたい。また後者に就いては、上演にさいして主役を演じた障碍者俳優ラトケについても調査できることを願っている。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究資料収集のための出張旅費として。 研究資料・機材の購入代金として。
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