今年度は、研究成果をマンガ教育に活用する方法の構想と検証を行なった。前年度までに行なった1830~1930年代のマンガ作品の分析をもとに、「ストーリーマンガにおいては、人間(登場人物)の「感覚-行動図式」の描写が、意味のある物語を成立させる根本的な要素となっている」ことに注目し、この点からマンガ表現教育のための基本プログラムを構想した。具体的には、「感覚-行動図式」の3要件(知覚・情動・行動)の中で絵に描ける(目で見える)のは、基本的に「行動」のみであることから、「行動イメージによって意味を伝える」叙述方法を検討し、言語との対比から、「動詞」の機能がマンガにおいていかに成立するかに論点を絞って教育プログラムを構成した。特に、認知言語学の知見を参照し、自動詞と他動詞の問題(特に「する」と「なる」の問題)に絞って分析を進めることで、言語とは異なるマンガの物語叙述方法を検討することができた。また同時に、英語などの他言語とは異なる日本語的な認知の問題も浮上し、アメリカのコミックスや、フランスのバンドデシネなどとは異なる、日本のマンガの特徴も論点に入れることができた。作成した教材は、実際に大学生のマンガ教育に導入し、有効性を検証するためのデータの収集を行なった。 「デジタルによるメディアの変化」については、実態調査を行ない、主にマンガが発表されているプラットホームの現状の確認を進めた。実際に商業出版として公開されているウェッブ雑誌の協力を得て問題点の分析を進め、上記のマンガ表現教育プログラムと関連づけるための基礎データを収集した。
|