本研究は、欧米の歌劇場における人材育成システムの、育成対象範囲(歌手・コレペティトゥア等)、育成体制、カリキュラム等の育成手法、育成にかかる財政などを明らかにし、そのモデルを導きだすことを目的としている。歌劇場に芸術家等の優れた人材を配置することは、各組織において最も重要な課題の1つであるが、そうした人材を育成する事業に直接注力することが可能な歌劇場 は、その数が限られている。今回は、社会環境の大きな変化の中にあるイタリア、比較的安定した歌劇場運営が 行われているスイスの歌劇場での複数の事例を検証し、芸術創造に関わる各人材の育成手法・体制等のモデル化 を行う研究を通じ、我が国の人材育成のあり方にも参照可能な汎用性を持たせようとするものである。研究実施計画として、27年度は海外の研究協力者との連携により、イタリアのミラノ・スカラ座、ヴァッレ・ディトリア音楽祭のアカデミア、28年度はスイスのチューリヒ歌劇場の国際オペラ・スタジオを中心に、1.育成対象と範囲(年齢等)、2.育成体制(教員等)、3.育成カリキュラム(内容、時間数、目的等)、4.育成に係る財政、5.修了した人材の活動状況も調査した。これにより、イタリア語圏、ドイツ語圏(スイス)における人材育成手法の対比が可能になった。本研究の成果として、日本音楽芸術マネジメント学会、日本音楽学会等で口頭発表および論文発表を行い、その成果を広く共有した。最終年度は検証の結果、人材育成の成功例と言えるヴァッレ・ディトリア音楽祭の研修生による公演を視察する。国際色豊かな若い芸術家の水準の高さから研修生に選抜される為の基礎教育と舞台経験が要請されることが示された。本研究から更に、各国音楽大学等での教育手法や音楽大学等の教育機関主催のオペラ公演実施状況、研修所各機関との連携体制の構築等、新たな研究課題が導き出された。
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