27年度の俳優などを対象とした実験、28年度の胸部刺激を伴った実験結果を受け、MRI画像の検証を多角的に行ったところ、本研究においては、予定していた超音波検査法など新しい手法を用いるよりも、MRI画像のさらなる分析と定量化を進めた方がより実りある研究結果が得られるのではないかとの考えに至り、最終年度である29年度は、これまでの被験者のジャンル分けとその結果から導き出された定量化のための補強実験、画像を利用した発声訓練に関する実験などを行い、研究分担者等と共に3件の学会発表、1件の論文掲載を行った。 MRI画像の検証からは、横隔膜、口腔・喉頭部それぞれにキャリアによる一定の傾向が見られていたが、今回、声を使うことを職業とはしない被験者を交えることで、その傾向を更に明確に捉えることができ、横隔膜はもちろんのこと、口腔・喉頭部の各部位における歌唱時における変化は、舞台人の健康的な発声を考察する上で、大きな手掛かりとなった。また、声楽初心者である被験者に、声楽初心者とプロ歌手のMRI画像を各部位の働きの解説を交えながら見せ、その前後の発声を録音する実験においては、音響分析結果及び被験者によるアンケート双方からその視覚化の効用を伺える結果が得られた。このことから、研究分担者である河原英紀教授考案の声道形状等を実時間で可視化することの出来るSparkNGも発声訓練において非常に有効であると考えられる。そしてもう一人の研究分担者、羽石英里教授の専門が音楽療法であることから、本研究の手法を用いての音楽療法士を被験者とした実験も試み、本研究が舞台人のみでならず、声を使うことを職業とする他分野にも有効であることが推察されるに至った。 以上、これまでの研究により、声を使うことを職業とする者が健康的に声を操る方法について、科学的見地からの考察をなすことができ、発声訓練法構築へと繋げることができた。
|