本研究は、「芸術と医療をつなぐメディアアート表現の可能性の探求」を目的とし、鑑賞者の情動反応に基づくメディアアート作品を医療現場において応用することを目指した。視覚的・聴覚的刺激と鑑賞者の行為をインタラクティヴに関係づけるメディアアートの方法と、脳波測定等による脳機能の情報化技術を接続し、人の情動(快・不快)反応に基づく実験作品を制作するとともに、鬱病のリハビリテーションなど気分障害に関わる医療現場での応用を試みることが目標であった。 そこで脳血流計測装置を用いた実験作品《光・音・脳》や脳波測定装置を用いた実験作品《rendezvous》の検証結果をふまえ、さらに精度の高い情動計測の方法を確立するために数度の実験を行った。また作品の展示場所や空間サイズにフレキシブルに対応できるよう、ポータブルNIRSを用いた実験も行った。しかしながらいずれの実験も情動計測の精度の高さという点において満足のいくものではなく、残念ながら医療現場での応用に用いるレベルには達しなかった。そこで今回は情動計測システムを作品に組み込まず、多様な感覚刺激が複数の鑑賞者の主観的な「快」を誘発させることに焦点をしぼり、新しい作品の実現へと向かった。 こうした経緯から、メディアアート作品《between》を制作し2018年1月にARTZONE(京都市)にて展示した。これは二人の鑑賞者が共同で「音」「香」「光」をコントロールし、それぞれの感覚刺激を楽しむ作品である。言わば二人で奏でる「音」「香」「光」のセッションの場である。この作品空間において、鑑賞者は相互に感覚のコミュニケーションを交わし、その即興的な時間を楽しむ。そしてこの共有される時間こそ、鑑賞者それぞれの快情動が引き出される時間となった。
|