前年度に引き続き、帝キネの活動を世界映画交渉の網目のなかで捉えるべく、20世紀初頭のアジアにおける映画の伝播、流通、配給、興行について調査分析した。既にシンガポールやマニラ、ソウル、上海、台湾を調査し成果を発表しているが、2018年度は香港の事例を調査した。その成果は論文「パテ社とアジア映画供給網の形成――香港を事例として」にまとめるとともに、香港城市大学で開催された東アジア文化交渉学会第10回国際学術大会で口頭発表を行った。また、帝キネ特約店のあった台湾の事例について追加調査を行い、台湾市場をアジア映画流通の視点から捉え直した。成果は論文「アジア映画市場の形成と日台交渉」にまとめた。 本年度は天活大阪および帝キネの九州市場およびイギリスのアーバン社に関する調査を新たに行った。調査後、これまで蓄積した研究成果を見直し、帝キネの活動を包括的に捉え直した。研究成果は著書『近代アジアの映画産業』、とりわけ第1部「大阪映画産業とアジア――帝国キネマ演芸」にまとめた。また1920年代の日本の市場変容とアメリカ映画の関係を分析した共著論文“The Reception of American Cinema in Japan”を日本訳し「日本におけるアメリカ映画の受容」として発表した。 加えて帝キネの衰退と日本映画産業のサウンド化との関係を明らかにすべく、サウンド移行期の調査を行った。成果は大阪の郷土誌『大阪春秋』に記事「秋田実の漫才映画三部作――日本映画の転換期」として寄稿するとともに、カリフォルニア大学ロサンゼルス校で開催されたシンポジウムで「活弁LOVE――ネオスーパー・トーキーと日本映画産業」として口頭発表した。 今後は、これまで蓄積してきた研究の成果をベースに未整理・未発表資料を加えて、帝キネの全体像を読み解き歴史化する作業に努める。
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