文化財修復(修理)の観点から仏画「涅槃図」に施される皆金色尊容表現を解明することを研究目的とした。推定室町時代にかけて制作された、徳島県正福寺に伝来する仏涅槃図における諸相を分析し、作品の特色、属性、様式史的現像を浮かび上らせ、総合的理解に至ることで、仏画に描き出された尊容表現を解明し、推定室町時代とされる制作年代について改めて検証することを研究目的とする。本研究は平成27年度から平成30年度において実施した。 まず、初年度は、修理過程から得られた情報を基に、(イ)絵絹(料絹)に着色された涅槃図の裏側から作品を目視調査観察し、裏彩色に施される顔料についての考察研究を試みる。仏涅槃図の修理仕様については、料絹に裏打ちされた旧裏打紙を取り除き、欠損箇所は補修絹を補い、楮紙にて1回目の裏打ちを行った。 次年度については、(ロ)料絹に着色される表裏の描き分けについての考察研究を試みる。仏涅槃図の修理仕様については、胡粉などを混ぜて漉いた楮紙にて、2回目と3回目の裏打ちを行った。 平成29年度と平成30年度については、(ハ)料絹に着色される表側からの考察研究を試みる。(イ)と(ロ)による、料絹の裏側の研究考察を踏まえ、表側からの部分的技法の再現による研究考察を試みる。修理仕様については、白土を混ぜて漉いた楮紙にて4回目の裏打ちを行い、仏涅槃図を掛軸装に仕立てる。 本研究の成果について、研究対象とする徳島県正福寺に伝来する仏涅槃図の保存修理については完了することができた。また、修理過程から得られた情報を基に、(イ)(ロ)(ハ)の研究考察から、仏画に描き出された尊容表現の解明、また、制作年代への検証につながる結論までは至っていない。そのため、仏画の尊容表現に関する研究として、改めて絵画表現に特化した研究内容の再考を図り、今後の研究展開に繋げていきたいと考える。
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