研究課題/領域番号 |
15K02211
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
勝山 稔 東北大学, 国際文化研究科, 准教授 (80302199)
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研究分担者 |
井上 浩一 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 非常勤講師 (40587169)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 白話 / 小説 / 『西遊記』 / 支那文学大観 / 共立社 / 翻訳 / 口語 / 戦前 |
研究実績の概要 |
研究実績の概要 当該年は近代日本における民間翻訳の受容史を語る上で不可欠な仮題である支那文学大観について検討を試みた。『支那文学大観』(以下『大観』と省略)は、大正末年に刊行を開始した中国の戯曲小説を邦訳した叢書である。本稿では、支那文学大観刊行会が予約出版に際して配布した『支那文学大観』内容見本と、『支那文学大観会報』(一~九号)から、その企画立案の経緯を探り、白話小説受容史から見た『大観』の位置づけについて従来未解明であった箇所に考証を加え、先行研究の不備を補完した。内容を要約すると以下の通りである。 Ⅰ 『支那文学大観』は①中国の古典の中でも顧みられることが少なかった戯曲小説に注目し、本邦未訳の作品を中心に翻訳を手がけたこと、②当時評価の対象にならなかった中国における現代小説や現代戯曲作品の翻訳を企画したこと、そして③文学的芸術性と学術的価値の両方を極めて高い水準で追究した点に大きな特徴があった。Ⅱ しかし実際の刊行は多難を極め、配本の遅延が慢性化した。また第六回配本「風箏誤」の出版譴責処分が発生したほか、『京本通俗小説』翻訳問題も更に加わった。『大観』刊行作業中に、偶然『警世通言』(大正一五年九月)が発見された。『警世通言』の発見によって、『京本通俗小説』の存在自体が疑問視され、書誌学的発見が相次ぐ中で急遽翻訳が見送られたと推論した。Ⅲ また昭和二年になると刊行会の経営が行き詰まり、第九回配本をもって停刊した。 刊行会に関係する資料を調べると、刊行会の代表者・永田勇造は同時に共立社の代表者でもあり、永田は発足間もない共立社で出版事業を行いながら、刊行会を発足し予約出版事業を展開していること。また刊行停止後も刊行会の所在地は共立社と同一であり、両社は同一異名か、もしくは極めて深い関係にあった出版社であることが分かった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況 現在までの進捗状況は、概ね順調に進展していると判断できる。当面する支那文学大観については、今まで謎に包まれていた『大観』の刊行停止及び廃刊の経緯が始めて明らかになり、民間翻訳の受容史の一端を明らかにした。なお、次回は井上紅梅が中国文化に関心を抱く直接的な原因となった養父の経営する井上商店の破綻について詳述する予定である。なお、井上紅梅の稀覯本や新発見の資料等も数多く今年度は発見した。ただ、研究する暇がない状況にあり、後日詳細に研究発表する予定である。 また『西遊記』の研究では、「河童の沙悟浄」についての考察は、一つの区切りを得たと考えられる。これは日本の西遊記受容の全体的な傾向について調査を行い、考察を加えたものである。 その一方で、日本において民間で翻訳された種々の西遊記に見られる個別の特徴も洗い出していきたいと考えており、現在のところ、佐藤春夫訳西遊記に関する資料と雲山閣道人訳「決定版新釋 西遊記」に関する資料の主たる部分について、おおよその収集を終えた。
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策 今後の推進方策については、従来全く検討されていなかった「井上紅梅が、なぜ井上商店を追われ、上海に渡航し、支那風俗研究を開始したのか」という紅梅の事跡研究の中で最も重要な疑問について、従来未解明であった箇所に考証を加えるため、当時の日刊紙に記載された記事・広告と紅梅の随筆と用いて、と同時に、先行研究の不備を補完する。 Ⅰ 当時井上商店の世代交代は喫緊の課題であった。それが先代井上安兵衛の年齢の問題である。日露戦争が終結し、軍需医療器械が主要業務であった井上商店にとっては経営の転換を迫られる時期にも直面した。そこで井上商店に多大な貢献をした宮田芳三と、本来の後継者井上紅梅との二者択一に井上商店は迫られることとなる。 Ⅱ 店長が交代した後の井上商店の活動については今まで皆目見当も付かない状態だったが、当時の日刊紙から多くの有力な情報が収集できた。また養父井上安兵衛の死去・養母井上さとの死去・新店長の死去など新事実を整理して紹介する。 なお『西遊記』の研究では、今後は日本の西遊記受容の全体的な傾向についての調査・考察はひとまず置き、民間で翻訳された種々の西遊記に見られる個別の特徴についての考察を行っていきたい。とりわけ、すでに資料の収集がある程度進んでいる佐藤春夫訳西遊記と雲山閣道人訳「決定版新釋 西遊記」の特徴を洗い出し、これまでに研究を行った伊藤貴麿訳、宇野浩二訳西遊記と合わせて考察することで、近現代西遊記翻訳史の大きな流れを明らかにしたい。
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