研究課題/領域番号 |
15K02219
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
小林 直樹 大阪市立大学, 大学院文学研究科, 教授 (40234835)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 無住 / 延寿 / 円爾 / 東福寺 / 宗鏡録 / 沙石集 / 三学 |
研究実績の概要 |
鎌倉後期の遁世僧、無住は、修学の当初より戒・定・慧のいわゆる三学への志向を強く持していたが、その三学兼備への志向性が、やがて東福寺における円爾膝下での修学を機に、三学具備の書、延寿『宗鏡録』との出会いをもたらし、彼に絶大な影響を及ぼした可能性について考察した。 まず、序文の中で『沙石集』の書名の由来を説く「彼の金を求むる者は沙を捨ててこれを取り、玉を瑩く類は石を破りて是を拾ふ」は『宗鏡録』の「如従石弁玉、似披沙揀金」に依拠するものである。さらに『宗鏡録』では、この文言の前後で延寿が著作の真意を読者に汲み取ってほしいと要望するくだりがあるが、『沙石集』の序文において無住も同様の読者への呼びかけを行っており、ここにも両者の影響関係を認めうる。そして何より重要なことは、序文の中でも作品の主張を端的に伝える「それ、道に入る方便、一に非ず、悟りを開く因縁、これ多し。その大きなる意を知れば、諸教の義ことならず、万行を修する旨、皆同じきものをや」が、ほとんど『宗鏡録』の主張そのものといってよいほど類似する点である。すなわち、無住にとって『宗鏡録』という書との出会いが『沙石集』執筆への強い動機付けとなったと考えられるのである。 ただし、無住は『宗鏡録』から大きな影響を受けながらも、その目指す方向は異にしていた。最上根の読者を対象とした『宗鏡録』に対し、『沙石集』は「愚なる人」を対象とし、経論の抄出集成を目指した『宗鏡録』に対し、『沙石集』は説話に比重を置いた。無住は『宗鏡録』との出会いによって、かえって著述の道で自ら歩を進めるべき方向性を見出し、五十代にして初の著作である『沙石集』の執筆に取り組むことになったと考えられるのである。 本考察は、無住の『沙石集』執筆の直接の動機、ならびに書名が禅籍『宗鏡録』に由来するものであることを初めて解明した点に大きな意義を有するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
禅律文化圏と説話伝承世界との関係を考察する本研究課題において、2016年度までは律の方面を中心に考察してきたが、2017年度は禅の側面の考察に比重を移した。当該年度においては禅籍『宗鏡録』が無住の『沙石集』執筆に根源的影響を与えたことを指摘することによって研究を進め得たと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2017年度の研究で『宗鏡録』が無住の『沙石集』執筆の動機付けとなったことを解明した。それを承け、2018年度の研究では『宗鏡録』の影響が『沙石集』の作品内部にどれほどのレベルにまで及んでいるかを考察し、もって鎌倉後期における遁世僧の禅籍受容の深度について見極めたいと考える。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初、年度内刊行が予定されていた書籍の刊行が遅れたため、その分の予算を次年度に繰り越した。
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