最終年度は、平成27・28年度の成果を合わせて相互に目録を組み込む作業と調整・編集を行った。具体的に言うと、万葉歌の詠まれた場所の出土遺構に関する目録を利用して歌の詠まれた環境を把握し(平成27年度)、そのうえで題詞・左注・歌における語句や歌句に関する木簡の報告書を集め(平成28年度)、それらを相互に関連づける作業である。 このようにして考古学・古代史学の分野から万葉歌の分析を行うための土台を作り、歌を詠む状況・条件に絞り込みをかけつつ、上代文学者が解釈の方向性を定められるよう意図した学際的文献目録の作成を目指した。「軍王の万葉歌と城山」として発表した論文は、それらを盛り込んだ実践例である。 研究期間全体を通じて、『万葉集』巻第1・2についてのおおよその学際的文献目録は完成させることができた。そのすべてを載せることはできなかったが、成果報告書としてまとめた分を全国の公立図書館へ発送した。 各地の図書館などに足を運び、厖大な量の報告書の中から歌の時代の故地に関連するものだけをピックアップする作業は、予想より時間のかかるものであったが、考古学的な判断を含めて進めてきたため、上代文学者(万葉学者)が用いることのできる学際的なレベルに達したものとなっている。 この目録を用いれば、厖大な発掘調査報告書にあたる必要もなく、また大要の把握しやすい文献情報も掲載しているので、短時間で万葉歌一首ごとの歌の詠まれた環境を把握することができるはずである。考古学的な判断についても、簡易ではあるが解説を付している。
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