研究課題/領域番号 |
15K02223
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
西本 寮子 県立広島大学, 人間文化学部, 教授 (70198521)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 大庭宗分 / 吉川元春 / 吉川元長 / 太平記 |
研究実績の概要 |
本研究は、大庭賢兼(出家して宗分となる)の文学的事績の再整理と未翻刻資料から得られる情報を通じて、大内氏から毛利氏へと活動の拠点を移し、好学で知られる吉川元春・元長父子とも関わりを持って戦国の世を生き抜いた一武将の文化活動の実態の解明することが主眼である。また、国人領主から戦国大名へと急成長を遂げた毛利氏にとって、文化活動がどのような意味を持っていたのかを、毛利元就に抜擢されて、毛利氏の政治の中枢に位置するまでになった大庭賢兼の事跡を起点として、元就を頂点とする毛利氏の文化政策という視点から検証し、吉川家に現存する関連典籍や古文書による裏付けを可能な限り試みることを目的としている。 今年度は、吉川家の文化活動の代表資料とされる『太平記』に注目し、複数の人物による書写活動と資料の伝存が確認できる元就・元春周辺において、『太平記』がどのように利用されたのかを知る手がかりを探ることに着手した。 戦陣での元春の書写の実態については先行研究で明らかになっているが、それがどのように享受、利用されたのかについてはあまり知られていない。元春の後継者であった元長の、学究的・実証的態度に基づく『太平記』享受の実態の解明を試みるため、基礎資料を整えることこそ優先されるべきことであると考え、所蔵者の許可を得てマイクロフィルムからのデータ復元を行った。元長には、志半ばで潰えたものの、諸宗兼学の寺院建立に際して『太平記』を参照した形跡がある(吉川家文書)ことから、その痕跡を探す作業をはじめた。また、賢兼が、寺院建立計画が進む中で元長と接触していたことは明らかである。いまだその確たる手がかりを見いだせてはいないが、武将として政務に関わりつつ『源氏物語』の諸注集成作成にいそしみ、合間に連歌会に参加するなど、吉川家、とりわけ元長の文事の周辺に必ず賢兼の存在があることについては確認できたところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本来は賢兼による『伊勢物語』研究の様相を明らかにすることから取りかかることとしていた。しかしながら、本務校で引き続き管理職を務めていることもあり、校務を優先せざるを得ず、所蔵期間に出向く時間が思うように取れない状況、研究に割く時間が制限される状況が続き、大幅な遅れとなっている。 このような現状を踏まえ、予定していた作業の順序を変える方が効率が上がると考えるに至った。改めて作業順序を検討した結果、ここ数年の間に『太平記』研究が飛躍的に進んだことを踏まえ、まずは『太平記』にかかる作業および考察を進める方がよいと判断したところである。結果として、吉川家所蔵資料の閲覧を願い出て許可され、入手が困難と予想していた大量の資料について身近に資料を置いて作業ができる環境になったことは幸運であった。ただし、マイクロフィルムの劣化が予想以上に激しく、優先的に復元作業に着手することとした。それに時間を要したことも研究遅延の原因の一つである。 また、一連の作業の過程で、複数の伝本の紙焼き写真データを所蔵している研究者から、大量のデータ提供を得ることができた。これらの資料の基礎的情報の収集に時間を要している。 このような状況を踏まえ、基礎データの整理を優先している。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年7月から8月にかけて、本務校において、広島市文化財団との連携事業によるリカレント連携講座「毛利元就周辺の群像」と題する講座を開催する予定である。申請者は全6講座のうちの一講座「大庭賢兼」を担当することとなっているが、これについては、これまでの研究に基づき、現在進めている作業から得られるであろう新たな知見を交えて報告することを予定している。今年度はまず、この講座の実施を機に、研究成果の再整理と公開から始める。 次いで、吉川本『太平記』の書き込みの状況から、吉川元春が書写した『太平記』を、実際に読み、活用したと推測される吉川元長の学究的態度による読解の様相を、可能な限り辿ることとする。『吉川家文書』により、吉川元長が諸宗兼学の寺院建立を志した時期に、賢兼が吉川家に出入りしていることが知られ、元長の教養形成に賢兼の関与の痕跡が見いだせることから、その時期の特定や関与のしかたなどを探っていきたいと考えている。 なお、申請時に記した研究の順序を変更することによって研究の遅れを取り戻すことを心がける。具体的には、賢兼が残した和歌資料について、校訂本文を作成する、時系列で再整理を行うなど、申請当初は平成30年度に予定していた作業を前倒しで行い、『伊勢物語』諸注集成資料の調査など、資料所蔵期間に出向いての研究については、来年度以降に行うこととしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
校務優先により研究に割く時間が大幅に制限されたことを主たる原因として、申請時に予定していた資料所蔵機関へ出向いての調査ができなかった。これにより、旅費に大幅な執行残が生じた。また、この調査の遅れにより、調査結果を受けての具体的な作業の振り分けに至らず、当初予定していた学生アルバイト等への謝金を支出するに至らなかったことにより、謝金に未使用額が生じた。ただし必要最低限の資料の収集および情報収集に係る経費は予定どおり執行した。
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次年度使用額の使用計画 |
新たな研究の進展についての情報収集および資料収集を優先的に行うこととし、新刊書、典籍資料、古文書、展覧会図録を含む関連資料の収集に努め、その購入に充てる物品費については、予定どおりの執行に努める。平日の資料調査日程の確保が困難な状況が続く状況は変わらないことから、国文学研究者のみならず、歴史学研究者との情報交換、また週末に行われる戦国武将の研究に関わる研究会や学会に可能な限り参加することとして情報交換および情報収集を行い、経費の適正な執行に努める。
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