二度の研究期間延長を経て最終年度となった2022年度は、諸資料の見直しと先行文献の内容の再整理、資料の読みすすめを続けた。長引くコロナ禍の影響で当初予定していた調査を続行することができなかったのも一因である。結果として、大庭賢兼の活動について、毛利氏に取り立てられて後の事績及び元就との交流に目を奪われ過ぎていたことに気づいた。それとともに、大内氏が長年にわたって蓄積してきたさまざまな文化遺産の研究の進展と深化により、賢兼の文化活動と中枢奉行人としてのあり方が、毛利元就を主とした後に培われたものではなく、大内義隆を主としていたころからの奉行人としての活動、作歌活動によるところが大きいと確信するに至った。 資料所蔵機関での調査の再開は諸事情により思うように進まなかったが、わずかながら関係する資料の伝存を確認できたという成果もあった。具体的には、現在知られている「宗分歌集」に脱落の可能性があることを確認できたこと、歌を学び直し、永禄11年頃にまとめられたとされている「詠百首和歌」のなかの大内氏奉行人時代の詠歌の現存と当該歌の解釈に関わる情報が得られたこと、「宗分源氏抄」(仮称)作成の契機となった源氏物語本文の収集にかかる情報を見いだし得たこと、吉川本『太平記』で知識を身につけた吉川元長の教養のあり方を見いだし得たことなどがあげられる。 2023年度に公表を予定している論文等にこれらの成果の一端を、再精査の上、盛り込むとともに、2023年度から始まる新たな研究組織への参加により調査と考究を続け、この間明らかにしえなかった課題と取り組みたい。
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