研究課題/領域番号 |
15K02225
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研究機関 | 昭和女子大学 |
研究代表者 |
阿部 美香 昭和女子大学, 人間文化学部, 非常勤講師 (10449093)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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キーワード | 醍醐寺焔魔王堂 / 唱導 / 縁起絵巻 / 宗教空間 / 宗教儀礼 |
研究実績の概要 |
本研究の中心主題である唱導と縁起の総合的研究ならびに中世宗教空間の復原的研究のうち、儀礼空間の復原的研究では、醍醐寺焔魔王堂の研究において大きな進展があった。特に、宣陽門院の御願のもと成賢により建立された焔魔王堂の空間を、成賢自身のライフヒストリーと重ねて考察した結果、成賢による儀礼空間の構築が全体的に解明された。その成果を6月の説話文学会大会において発表し、高い評価を得て『説話文学研究』に採択、印刷中である。更に、同女院の信仰の原点となった身心の危機と成賢による招魂法の重要性も浮かび上がり、あらたに探究すべき課題として、昭和女子大学女性文化研究所において報告を行った。 二所三嶋の縁起研究においては、研究対象が新たに出現した中世神像にも広がり、3月にドイツ・ハイデルベルク大学の国際研究集会において、特異な神像成立の背景について、縁起テクストや源延による走湯山の勧進と儀礼全体の運動のなかに位置付ける考察を行い、あらたな試論を提出した。その成果はただちに奈良国立博物館で開催された伊豆山神社展でも評価を得た。また同時に、縁起テクストの重要性が再認識された。そのテクストの世界を国際的かつ社会的に発信する実践的研究の試みとして、10月にフランス・フランス国立東洋言語文化大学(INALCO)と、天理日仏文化協会おいて、伊豆山神社で自身も加わって制作した『走湯山秘訣絵巻』の絵解きに取り組み、中世の宗教空間を現代の美術と書そして言葉で蘇らせた。 中世の宗教儀礼や唱導テクストの原本調査や作品研究に取り組むなかでは、北野天神縁起の研究にとって重要な核心となる『日蔵夢記』の新資料(内山永久寺旧蔵中世写本の宗淵模写本)を発見し、影印翻刻によって紹介する画期的成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
醍醐寺焔魔王堂の研究において、醍醐寺聖教をはじめ関連文書資料を探査し研究した成果をただちに学会において報告し、新出資料をふくむ貴重な情報を示すことができた。 二所三嶋縁起の研究においては、研究成果を広く国際的、社会的に発信する試みを美術史や宗教学の研究と分野を超えた共同研究としてドイツとフランスで実現でき、毎年伊豆山神社で行っている地域一般社会へ還元する試みとあわせて、大きな成果を得ることができた。 唱導や縁起テクストの復原的研究においては、『日蔵夢記』の画期的な資料を報告することができ、人文学全般に寄与する成果を得た。 これまで集中的に調査研究を進めてきた融通念仏縁起と絵巻についても、それまでの成果を集成した総合的な成果を融通念仏宗自体で刊行した学術論文集に依頼を受けて執筆、掲載した。 これらの成果報告は、予想を越えるペースで進展している。
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今後の研究の推進方策 |
安居院の唱導と儀礼に関わる調査研究について、基盤研究(S)「宗教テクスト遺産の探査と綜合的研究―人文学アーカイヴス・ネットワークの構築」による人間文化研究機構の共同研究にも参加し、関連資料の継続調査・研究を進めて資源化をめざす。またそれらの研究を文芸諸分野にもひろげるべく、西尾市岩瀬文庫で開催が予定される「絵ものがたりファンタジアⅡ」の図録や研究資料集の作成を中心に共同研究を推進する。さらに、宗教資料の保存アーカイヴス化と研究、および文化資源化を、東京大学史料編纂所の公募型共同研究を通して構築しながら、中世宗教空間の復原を目指す総合的研究を推進していく。
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