本研究課題は、中世社会に大きな影響を与えた唱導テクストや縁起、儀礼テクストに着目し、中世の宗教空間の復元的研究を目指すものである。その最終年度にあたり、前年度までに実施した作品調査の成果を土台に、以下のような研究の推進と成果報告および普及に努めた。 1、融通念仏縁起絵巻の主要伝本の調査と高精細の画像による記録化に関する取り組みは、アーカイブス化の準備のみならず、JSPSグローバル展開プログラム「絵ものがたりメディア文化遺産の普遍的価値の国際共同研究による探求と発信」に基づくアメリカ・フリーア美術館における絵巻の共同調査・研究によるワークショップへと展開し、国際的な学術交流に貢献することができた。また暦応模本の資料紹介と解題的研究を通じて、絵巻の成立と展開のプロセスの解明にあらたな知見を提示することができた。 2、中世の宗教空間の復元的研究は、醍醐寺閻魔堂と融通念仏の共通のパトロンである宣陽門院の宗教的主体性を問い直す試みにおいて綜合的に取り組み、その成果をアメリカ・コロンビア大学における国際研究集会にて報告し、資料集を作成して、本助成に基づく研究成果を国際学術交流の場で発信、提供することができた。 3、中世を代表する宗教者かつ文学者であった慈円の新出史料『本尊釈問答』を紹介し、その宗教思想と歴史思想とが不可分であることを論証することができた。 4、本科研の研究成果を土台に、JSPS基盤(S)「宗教テクスト遺産の探査と綜合的研究」(26220401)に基づく神奈川県立金沢文庫や人間文化研究機構国文学研究資料館との連携展示や、東京大学史料編纂所2018年度一般共同研究への参加を通して、研究成果の社会的普及に努めるとともに、あらたな文化的コンテンツの創造と発信に努め、地域社会に根ざした文化活動に貢献することができた。
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