平成29年度は、一昨年度、昨年度に続き、一昨年度完成したテキストデータをもとに、万葉語彙についての有志の研究会を、二松学舎大学、専修大学において、三度開催した。その展開として、現在「柿本人麻呂歌集」を精読するプロジェクトを進めており、将来的にその注釈書の刊行を目指したいと考えている。 本年度のもっとも大きな成果は、人物叢書『柿本人麻呂』を刊行したことである。『万葉集』の語彙研究の成果を充分に取り入れたもので、その内容には自負するところがある。とりわけ、「柿本人麻呂歌集」については、新たな視点を示すことができたと考えている。 さらに、昨年度は、やはり『万葉集』の語彙研究の成果を踏まえた『高橋虫麻呂・山部赤人』の原稿を完成させた。すでに校了ずみであり、笠間書院から日本歌人選の一冊として、夏頃には刊行される予定である。ここでは、高橋虫麻呂と山部赤人の作品の表現史的視点からの詳細な分析を行った。 昨年度から継続中の『古事記』の評釈の執筆は、『古事記』の歌謡の語誌的研究からの展開だが、現在、下巻「允恭記」までの原稿をほぼ完成させた。『古事記』の訓読本文、に、その内容を詳述した評釈を加えたもので、これについても、来年早々の刊行を目指している。歌謡については、語誌的研究の成果が充分に生かされていると自負している。 この他、本年度は、本研究課題に関する研究論文を四編(うち一編は連載継続中)講評し、また大伴家持生誕一三〇〇年を記念するシンポジウム(上代文学会)において報告を行った。
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