本年度の課題である世阿弥能楽論と儒学との関係について引き続き考察を行い、中でも東福寺と関連の深い程朱学に注目した。また、本年度の別課題であった禅の「一心」概念との関係は前年度以前に考察したため、本年度はさらに進めて、世阿弥能楽論の重要な背景である当時の日本の禅の思想・文化の中国的特徴や足利将軍家の禅との関係について立体的に考察を行い、同時に、足利将軍家文化圏において能楽と共存した連歌・花道など他の文化ジャンルやその藝道書と世阿弥能楽論との関係や、後代の能楽の武家文化としての展開についても考察を行った。 これらの研究のため、数回の国内出張(東京及び近郊・和歌山等)を含め、関連文献・文化財等の調査、学会・研究集会を含む関連研究者との積極的かつ具体的な学術交流を行い、本研究に直接関わる重要な資料や知的情報の入手・交換など、大きな収穫があった。また、本研究に基づく世阿弥能楽論関連出版物の近年中の刊行に向けて、出版社とともに具体的、前向きに計画を進めることができた。また、本研究に係る海外(台湾)における学術講演1回を行った。また本研究の成果として、著書1冊(共著)・学術論文2本、学術的短文論考2本(短文論考1本は印刷中)、一部の世阿弥伝書の新校訂本文作成(現在researchmapのHPにファイル添付)があり、そのほか新たな論文3本等を執筆中である。 以上のとおり、昨年度に続き、足利将軍家および周辺の文化圏における儒学や中国風の文化や、足利将軍家を核とした室町文化の他ジャンルについて、世阿弥能楽論との関連について新しい視点や関係を見出すことができ、それに基づき、世阿弥能楽論の成立や解釈に関して学術的新境地に到達したと考えている。また、本テーマに発展性を与える足利将軍家文化圏や後続する武家文化としての能楽に関する考察も進展させ、全体としてたいへん有意義な成果を上げたと考える。
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