研究課題/領域番号 |
15K02245
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯田 祐子 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (80278803)
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研究分担者 |
中谷 いずみ 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (10366544)
笹尾 佳代 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (60567551)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 女性作家 / 女性知識人 / 女性雑誌 / 1930年代 / ジェンダー / ヘゲモニー闘争 |
研究実績の概要 |
初年度として、基礎作業となる目次のデータベース化を行った。執筆者・記事分量・記事内容・記事ジャンルについて、正確なデータ化を行い、既存の総目次・索引の漏れを補うとともに今後の作業の基盤を整えた。またこれまで全く分析されていない広告についても、広告主・広告分量・広告ジャンルのデータ化を行った。同時代の女性雑誌全般が消費文化において果たした役割をふまえれば、広告の分析の必要性および重要性は高い。27年度に完了したデータを元に、28年度以降、詳細な分析を行う。資料収集については7割程度完了し、著作権の関係で復刻から省かれていた高群逸枝執筆部分を、神戸女学院大学図書館所蔵のオリジナルによって補った。 雑誌分析の研究会は、5回開催した(2015年4月20日、2015年8月8日、2015年10月5日、2015年11月2日、2016年3月2日)。現段階で検討し終えたのは、1巻1号~2巻12号までである。『女人芸術』は前半と後半で大きく変質しているが、その前半にあたる部分の検討が完了したといえる。女性作家・女性知識人の多様性について検討を重ね、リベラルフェミニズム系、モダニズム系、左翼思想系(アナーキズム系/プロレタリア系)という仮定していた分類の妥当性が確認された。また研究協力者である尾形明子のセミナー「『女人芸術』の人々と私」を公開で開催し(11月2日、於名古屋大学)、当事者の聞き取りから得た当時の状況や『女人芸術』研究の現在に至る流れについて認識を深めた。本研究に連なる成果として、飯田は『彼女たちの文学』(名古屋大学出版会、2016年3月)において女性作家研究の枠組みを提示し、中谷は「ナショナリズムの語りと新自由主義―排外主義言説と小林よしのり『戦争論』」(『社会文学』第42号、92-105頁、2015年8月)において、現在における文化的ヘゲモニー闘争を分析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
予定していた目次および広告のデータベース化が完了し、数量的な把握と、確実な検索が可能になった。執筆者や記事題目のみならず、既存の索引にはなかったジャンルについてもデータ化したので、ジャンルについての数量的な把握により構成の特徴を数値で示すことが可能になった。ただし、ジャンル区分が難しい記事が存在していることも作業の中で明らかになっており、それらについての区分方法については、今後より精密に検討する必要がある。また広告のデータベース化が完了したことで、『女人芸術』の商業主義、消費主義的な側面について考察することが容易になった。同時代に刊行されていた女性雑誌の多くは女性を消費者として構築していく傾向を持っており、広告に関するデータは、それらとの比較を行うために非常に有効である。詳細な分析は28年度以降に行う。 雑誌分析としては、『女人芸術』の前半にあたる1、2巻の検討を終了し得た。マルキシズムおよびアナーキズムとの関係の深さが確認されると同時に、それらの差異が『女人芸術』においても再生産されていることが確認され、左翼思想全体の流れの中に『女人芸術』を配置することの必要性が認識された。加えて、セックス・ワーカーを素材とする小説・評論等が一定数あり、政治的な立場に容易に還元できない力学が働いていることが認められた。従来の左翼思想研究において不十分なジェンダー分析が必要であることが明らかになった。
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今後の研究の推進方策 |
データベースについては、入力は完了したが、それぞれの項目について修正および調整が必要である。28年度は、修正作業を進めていく。 詳細な分析を3巻以降を対象として進めていく。1、2巻の分析によって、左翼思想における配置の検討、セックス・ワーカーに関わる作品・記事の意味づけ、また他の女性雑誌に比較して多く掲載されている外地・外国情報の特徴の分析などが、とくに必要であることが明らかになった。後半における変化に注目しながら、それらの観点における独自性を明らかにする中で、ヘゲモニー闘争の様相に迫っていく。さらに新たな分析として、第一に、読者によるフィードバックについて考察を進め、「読者通信」欄、編集後記、企画への応募、各地講演会、女人連盟の結成などから読者の反応を検証する。読者との回路(a)、量的把握(b)、内容の質と傾向(c)、ヘゲモニー構造との関係(d)を分析する。分析は飯田が担当する。第二に、メディアにおける女性作家・女性知識人に関する表象との交渉について、 メディアにおける女性知識人や女性作家の評価(a)、『女人芸術』の受容状況および評価(b)、『女人芸術』の応答(c)、ヘゲモニー闘争への影響(d)を分析する。分析は笹尾が担当する。第三に、ソヴィエト関連情報による規範生成について、『女人芸術』に掲載されたソヴィエト関連の情報の数量的な把握(a)、情報のジェンダー化(b)、規範的な機能(c)、ヘゲモニー闘争における機能(d)を分析する。分析は中谷いずみが担当する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の基礎資料となる、近代の女性雑誌研究、『女人芸術』に集った女性作家・女性知識人の個別研究、同時代の女性文学作品の収集が未了なため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の基礎資料として、雑誌に関する研究書、女性知識人・女性作家に関する研究書、女性作家の作品(単行本、全集等)等を補充する。書籍購入費(80000円)、および購入し得ない単行本や雑誌収集の資料および文献を複写するための複写費(20000円)に使用する。
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