研究課題/領域番号 |
15K02245
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
飯田 祐子 名古屋大学, 文学研究科, 教授 (80278803)
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研究分担者 |
中谷 いずみ 奈良教育大学, 教育学部, 准教授 (10366544)
笹尾 佳代 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (60567551)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 日本近代文学 / 女性知識人 / 女性作家 / ジェンダーの複数性 / マルクス主義 / アナーキズム / 無産者運動 |
研究実績の概要 |
本年度は、研究会を五回開催した。第一回から第三回までは、「読者によるフィードバック」、「メディアにおける女性作家・女性知識人に関する表象との交渉」、「ソヴィエト関連情報による規範生成」を三つの柱として、順次、雑誌の全体像を把握するための検討を進めた。具体的には、以下の通りである。「第3巻第1~6号」(6月8日、13:00-17:00、於芦屋市市民センター101号室)、「第3巻第7~12号」(8月8日、13:00-17:00、於芦屋市公民館304室)、「第4巻第1~6号」(9月28日、14:00-17:00、芦屋市公民館211室)。また第四回は、第一・二巻をふりかえり、三つのテーマを抽出した(2017年1月10日、13:00-17:00、於芦屋市商工会2号室)。第五回は、以上をふまえて公開研究会とした(3月21日、13:00ー17:00、於名古屋大学文学部棟 130教室)。飯田祐子「高群逸枝と『女人芸術』」は、「女性」というカテゴリーの機能を分類しアナーキズムとマルクス主義の関係を分析した。中谷いずみ『『女人芸術』創刊前後ー無産者運動と女性解放』は無産者運動内の差異とそのヘゲモニー闘争の過程を分析した。笹尾佳代『『女人芸術』の創作ー交渉の痕跡として』は創作における参加者の出自を確認し『女人芸術』の多様性について報告した。三本の発表に対して、ディスカッサントとして尾形明子がコメントを行い、会場参加者とも有益な意見交換を行うことができた。他に、『女人芸術』に関する著作のあるシュリーディーヴィ・レッディ氏を招いて、講演「インド・日本の女性運動ーポストコロニアル的比較研究」を開催し(7月12日、15:00-17:00、於 名古屋大学文系共同館2A)、アジアにおける女性知識人・表現者について広く議論する機会を設けた。またジェンダーの複数性、近代女性作家について、論文を各々公刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
目次および広告のデータベース化が完了し、既存の目次・索引の不備を修正することができた。ただ、全体的な確認については、雑誌についての検討に応じて行っているため未だ完了しておらず、次年度も継続して行うこととする。雑誌の分析としては、28年度は、第3巻第1号~第4巻第6号までの検討を終えることができた。第2巻までとの最も大きな差異は、先行研究でも指摘のあった左傾化であるが、ここまでの検討を通して浮かび上がったのは、同時代のマルクス主義運動だけではなく、アナーキズムや農民文学などとも関わりを持っていることである。雑誌の参加者は、それぞれに外部の文脈を保有しており、それらを読み解くことが、雑誌固有の問題の理解のために不可欠だということが、明瞭に認識された。『女人芸術』は、それら複数の文脈を繋ぎまた、ときに接触による燃焼が発生する「回路」ともいうべき空間となっている。また同時に、『女人芸術』の参加者の中には、外部の運動に対して明らかな関心を示しつつも周縁に止まる傾向を持つ表現者も少なからずあった。これらの周縁性は、左翼(文学)運動をジェンダーの観点から分析する必要性を強く感じさせるものであった。こうした性質を鑑み、次年度は『女人芸術』のみならず、同時代といえる1930年前後の女性知識人・表現者についてジャンル横断的に検討するためのシンポジウムを企画することとした。3月に開催した公開研究会は、『女人芸術』第二巻までを対象とした中間報告として行ったが、シンポジウムに向けて論点を整理することも目的の一つとした。報告と議論の結果、三つの論点を抽出することができた。次年度は科研メンバーに他領域の研究者を加え、議論を深めることとする。
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今後の研究の推進方策 |
最最終年度にあたる29年度は、第四巻第7号~第五巻6号(終刊)までの、全体像把握のための検討を進める。この期の背景には満州事変の勃発がある。左翼思想への弾圧が強化される中で、運動の立て直しが図られた時期でもある。『女人芸術』での動きもそれらと連動していると予想される。もともとの特徴であった多様性がどのように変異していくか、その過程を明らかにすることを目的としたい。また最終年度なので成果の報告を行う。計画段階では日本文学関係の学会でパネル報告を行うことを予定していたが、雑誌の特性からジャンル横断的に検討を行う場を設けることがより適切だと判断した。そこで、『女人芸術』における問題を、同時代の文化動向の中に位置付けることを目的として、学問領域およびジャンル横断的なシンポジウムを開催することとする(2018年1月20・21日、於名古屋大学ジェンダー・リサーチ・ライブラリー)。全体のテーマを「1930年前後における文化生産とジェンダー」と定め、具体的には三つのセッションを設ける。①マルクス主義におけるジェンダー表象(発表:中谷いずみ(奈良教育大学)・李惠鈴(成均館大学)・呉佩珍(台湾政治大学))、②交渉する表現主体とジェンダー(発表:笹尾佳代(神戸女学院大学)、星野幸代(名古屋大学)・木下千花(京都大学))、③女性知識人の1930年前後(発表:飯田祐子(名古屋大学)・ サラ・フレデリック(ボストン大学))。『女人芸術』を起点としつつ同時代の文化事象に議論を開き、「女性」カテゴリーの複数性とその競合性について検討する。日本だけではなくアジアの状況を視野にいれ、文化受容者あるいは消費者としてではなく、文化生産主体・闘争主体としての女性たちの動向を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
近代の女性雑誌研究、『女人芸術』に集った女性作家・女性知識人の個別研究、同時代の女性文学作品の収集を継続するため。また、29年度にシンポジウムを開催するため、その経費として使用するため。
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次年度使用額の使用計画 |
研究の基礎資料として、雑誌に関する研究書、女性知識人・女性作家に関する研究書、女性作家の作品(単行本、全集等)等の書籍購入費(代表者:200千円)、購入し得ない単行本や雑誌収集の資料および文献を複写するための複写費とする(代表者:40千円)。また研究会およびシンポジウムの旅費(代表者100千円、分担者(2名)各50千円)、データベース作成およびシンポジウム関連の人件費(代表者:200千円)、資料翻訳費(代表者:100千円)、パソコン関連消耗品・プリンタトナー・文具類などの消耗品費(代表者:140千円)として使用する。
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