白樺派の有島武郎からプロレタリア文学の小林多喜二への流れは、大正から昭和へという時代区分の転換のみならず、白樺派からプロレタリア文学へ、無政府主義から社会主義へと、日本文学史上の諸傾向の重要な転換を示している。この意味において、両作家の作品は、1900 年から1930年代にかけての文学・思想を解き明かすための貴重な手がかりである。 大正と昭和という違う時代の制約から有島武郎は無政府主義に親近感を抱いたが、思想と実践との一体化を重んじたプロレタリア文学の先駆者として、有島の文学は多喜二の作品とともに高く評価される。本研究は両作家の流れと発展とを、文学史上、思想史上の観点から意味づけた。
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