本研究は医療および医学に関係する近世文芸を対象とした。研究成果は大きく三つに分けられる。一つ目は重要な資料の翻刻である。『当世医者風流解』初編・二編と『笑談医者質気』の翻刻と解題作成を行った。これらは近世における医者および医学について重要な見方や知識を教えてくれる貴重な資料にもかかわらず、信頼のおける底本にもとづいた正確な翻刻や解題が存在しなかった。 二つ目は文学作品の中での医者や医療関係の用例をジャンルごとに全集や事典や研究書を援用しつつ大規模に収集し、「医学関連作品年表」を作成したことである。仮名草子、八文字屋本、その他の浮世草子、談義本・滑稽本、黄表紙、噺本、落語について年代順に用例収集した。収集した用例の数は594にのぼり、近世文芸と医学の関係を知る基礎資料として活用されるはずである。 三つ目は竹斎物を中心とした近世医学小説の紹介である。仮名草子『竹斎』とその影響を受けた作品を竹斎物と定義し、11点について梗概を中心とした解題を記した。加えて、重要な医学小説である『笑談医者質気』と『医者談義』の解題も加えた。これらの作品は言及されることが多いにもかかわらず、その内容を手短に確認できない状況にあった。本成果により近世文芸の中の医学について、格段に論究しやすくなったはずである。 以上により近世小説を通じて、江戸時代の医学状況について学ぶことが容易になった。研究成果に関しては、「三重大学日本語学文学」誌に翻刻を掲載したほか、2018年3月に研究成果報告書を作成、印刷し、残りすべてを収録した。
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