最終年度においては、幕府が藩に知らせた出版法があるかないかの確認作業を終え、論文化することを試みた。これまで幕府が藩に出版法を伝えたかどうかを確かめた者がいないからである。幕府が藩に知らせた法令を記録した史料として知られている地方法制史料のうち、岡山藩の史料である岡山大学附属図書館池田家文庫の『東御法令』と加賀藩の史料である金沢市立玉川図書館近世史料館加越能文庫『公儀御触』の内容を点検し、幕府が藩に出版法を知らせた形跡がないことを確認した。しかし、岡山藩の史料は年次順、加賀藩の史料は分類体であり、形態がことなっているし、岡山藩の分類体法令集『法例集』に使用された史料名を見ると、江戸時代岡山藩には『東御法令』とは別の逐次記録史料があったようであり、もし『東御法令』が採択実施法令集だとすると、『東御法令』以外にも幕府が岡山藩に伝えた法令があった可能性がある。一方、加賀藩の史料は江戸時代前期の法令を収録していない江戸時代後期の法典である。『東御法令』と『公儀御触』に出版法が収録されないからと言って、単純に幕府が出版法を藩に伝えなかったとは言えないかもしれない。そのため加賀藩の諸史料を網羅的に拾った編年体の史料集『加賀藩史料』(全17巻)の内容を補足点検する作業に入って年度末に至った。また、念のため幕府が藩に伝えた法令を記録する史料として知られるもうひとつの(最後の)史料である熊本大学附属図書館永青文庫の収録内容を点検すべきであると考えている。 なお、研究期間全体を振り返れば、研究期間前半年度に行った作業によって、大阪出版法の補足作業を終えた研究期間となった。 今後、研究期間中に未完成となった文学史との相関の追求、特に大阪の西鶴作品に注目して法と文学との具体的関係を考察していくことになろう。
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