研究期間延長を受けて、今年度は、東京大学史料編纂所・早稲田大学図書館・京都大学附属図書館・天理大学附属天理図書館・神宮文庫等の諸機関において資料調査を実施し、「西山宗因年譜考証」原稿を完成させた。同稿は、来年度中の公刊を目指し、目下出版社との交渉に入っている。 宗因伝記研究における核心的課題は、連歌師から俳諧師への転身の理由を解明することにあり、その画期は、従来、寛文十年二月、小倉の黄檗宗福聚寺における出家に求められてきたが、「西山宗因年譜考証」において博捜した伝記資料を駆使してその定説を否定し、宗因の黄檗帰依は最先端の西国文化を体現することで上方俳壇における人気を高める手段であったと論じたのが、「宗因における出家とその意味」(『近世文藝』第108号、2018年7月)である。また、従来、内宮長官荒木田氏富の招聘によって敢行され、神宮連歌の隆盛に貢献したとされてきた宗因の伊勢下向をめぐっては、「西山宗因年譜考証」において博捜した伝記資料を駆使してその定説を見直し、宗因と外宮御師たちとの交渉の様相をうかびあがらせ、宗因が、相手によって、連歌師としての顔と俳諧師としての顔を巧みに使い分けていた事実を指摘したのが、「宗因と伊勢 新考」(平成30年度芭蕉祭文部科学大臣賞受賞記念講演、2018年10月。『ビブリア』第152号に「宗因と伊勢 続狢」と改題のうえ掲載予定、2019年10月)である。 宗因における連歌と俳諧の問題は、付合文芸の地域的・階層的浸透、地方と中央を貫流する文化の諸相、連歌師の職業世襲化とその限界、興行と点業という連歌師・俳諧師の業態、回国と定住という連歌師・俳諧師の行動様式など、近世初期という時代を特徴づける文化社会的事象の検討を抜きにしては解明できない。「西山宗因年譜考証」の成果を集約した上の2論は、宗因研究に留まらず、連歌俳諧史の研究に広く寄与する成果と言える。
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