研究課題/領域番号 |
15K02253
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
母利 司朗 京都府立大学, 文学部, 教授 (10174369)
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研究期間 (年度) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 江戸版 / 上方版 / 仮名法語 |
研究実績の概要 |
近世前期に江戸で出版されたいわゆる江戸版の本文の特徴を、そのもとになったと思われる上方版とくらべることによって解明する課題研究の2年目として、仮名法語といわれるジャンルの作品を2点とりあげ、上方版との一字ごとにわたる比較をおこなった。 考察結果は、「江戸版仮名法語の本文―近世前期における江戸版本文の特性(2)―」(『京都府立大学学術報告 人文』第68号・平成28年12月刊)に発表した。とりあげた作品は、江戸版『夢遊集』(題簽「ねざめ草」・寛文13年松会刊)と江戸版『法灯国師法語』(明暦2年松会市郎兵衛刊)である。 前者では、筆工が、上方版を可能なかぎり忠実に写していきながら、上方版を手直しした方が良いと思われる箇所では臨機応変に改変を加え、全体として決して質の悪い文章になっていないことが明らかになった。後者でも致命的な誤りは少なく、時には上方版の誤りを訂正しながら、ほぼ忠実に上方版を翻刻していった様子が明らかになった。 初年度にあつかった江戸版御伽草子においても、上方版との異同は少なく、本文の良質であることを明らかにしたが、本年度あつかった仮名法語においても、写し間違いによる単純なミスは見受けられるものの、手を抜いた杜撰な処理によって悪い本文が生まれた、というような現象はほとんど見られず、逆に版下を担当した筆工の良心的な作業の痕跡さえ少なからず認められた。初年度の繰り返しとなるが、あらためて江戸版本文の再評価が必要となろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画では、本文の特徴を検討する作品として、2年目は『水鏡注目無草』と『好色一代男』をとりあげる予定であったが、見直しの結果、仮名法語というジャンルに絞り、とりあげる作品も、『水鏡注目無草』から、『夢遊集』と『法灯国師法語』に変更した。初年度の御伽草子と同じく、同じジャンルに対象を限定した方が、より作業が進展し、特徴を明らかにしやすいのではないかと判断したからである。変更の結果、作業は順調に進み、仮名法語というジャンルにおける江戸版本文の特徴を、ある程度明瞭に解明することができたのではないかと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
初年度と本年度おこなった研究方法は、江戸版の本文を一字のレベルまで、そのもととなったと思われる上方版の本文と比較対照していく、というものであった。この方法によって、確実に一定の成果を出すことができており、次の最終年度においても同様の手法を用いて真摯に研究にとりくんでいきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度の繰り越し金と合わせ、所蔵するマイクロフィルム資料からの電子ファイル化に必要な費用を見込んでいたが、精査の結果、その必要性がなくなったため。
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次年度使用額の使用計画 |
最終年度である次年度においては、往来物資料を扱う予定である。初年度と2年度で扱った御伽草子や仮名法語と異なり、往来物においては、内容に中心を置いた本文の比較という方法ではなく、覆刻関係を厳密に図版により比較検討していく必要があり、そのための複写代、画像処理のための費用に繰り越し金をあてたい。
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