本研究では、歌舞伎に関する画像資料の解明がいまだ進展を見せていないことに鑑み、歌舞伎の基礎資料である (上演演目に関する記事を中心とする役者評の集成) や絵入狂言本 (挿絵入りのあらすじ本) の挿絵に着目し、その成立過程や上演資料としての信頼度を考察してきた。 平成27年度・28年度に引続いて今年度は3名の研究協力者との研究会を7回開催し、絵入狂言本の挿絵を中心として画像資料の持つ意義についての解明を試みた。その結果、挿絵の類似性は一つの本屋 (江戸時代の出版社) の出版物の中だけにとどまらず、多数の本屋の出版物の間でも見られること、本文の内容に欠けている事柄を挿絵が補っている場合があることなどが新たに判明した。 また、12月には2名の研究協力者と共に絵入本学会主催の絵入本ワークショップに出席し、江戸時代の画像資料に関する多方面からのアプローチによる研究発表を聴講し、今後の研究に繋がる情報を得た。 現在の歌舞伎の演出についても十数回の上演実態調査を行って、江戸時代から継承されている演出の型や現代に通じる方法での改変を確認し、画像資料解明の手がかりとした。 以上の研究については、研究代表者の公開講演、研究協力者3名の論文などで公表し、多数の研究者からの意見を求めて深化させている。研究代表者の公開講演は、近松作品の人物像を写真資料を活用して解釈しようとしたものである。研究協力者の論文は、歌舞伎のみならず浄瑠璃にも言及して演出を考察したものである。
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