研究課題/領域番号 |
15K02258
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
武内 佳代 日本大学, 文理学部, 准教授 (40334560)
|
研究期間 (年度) |
2015-10-21 – 2019-03-31
|
キーワード | 大岡昇平 / 三島由紀夫 / 女性読者 / 女性雑誌 / ジェンダー規範 |
研究実績の概要 |
今年度は昨年度までの調査・分析の結果を踏まえ、研究対象の方向転換を図った。具体的には、当初予定していた大岡昇平文学と女性読者の関係性に関する研究は、調査の結果、予想していたほどに実りが多くはなさそうであったため、大岡文学と女性読者層を多く共有し、互いに女性読者向けの作品についてやりとりのあった、三島由紀夫をクローズアップするかたちへと方向転換した。同時代において三島のほうが大岡よりも遙かに多くの長篇小説を女性向けの雑誌に連載しており、かつ、大岡昇平と同様、女性誌連載の作品についての論文がほとんど無いからである。そこで三島との比較のかたちで、大岡文学と女性読者の問題を取り上げる方向で最終的な研究成果をあげようと考えている。 今年度、三島については、『永すぎた春』『お嬢さん』『黒蜥蜴』『肉体の学校』『女神』といった長篇小説・戯曲を取り上げ、それぞれ『婦人倶楽部』『若い女性』『婦人画報』『マドモアゼル』『婦人朝日』といった女性誌連載において、誌面の性質に照らして女性読者に対してどのような同時代のジェンダー規範をめぐる啓蒙あるいは裏切りの可能性があったのか、また、いわゆる三島の「主流」と見なされてきた仕事とどう関連しているかを調査・検討していった。それにより、ベストセラーとなった『永すぎた春』が当時掲載誌『婦人倶楽部』の提示したジェンダー規範や女性問題を入念に踏まえた内容であったことを明らかにするとともに、この成功作以降の三島の女性誌連載作品が基本的にかなり掲載誌の性質を意識して書かれていたことも解明することができた。また、各々の女性誌連載作品は緩やかに同時代の三島の「主流」の長編小説とテーマ的な連関性を有していることも可視化することができた。本年度においてこれらについての研究成果は、雑誌・古書の専門誌『日本古書通信』に断続的に活字として連載を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
3年間の計画だった本研究に関しては初年度の段階で、10月に繰り上げ採用になったことによってそもそもの進捗の遅れがあった。2年目は調査と学会発表を行い、遅れをだいぶ取り戻したが、その年度末ごろから同居の家族の看護・介護が必要になり、3年目にあたる本年度はまったく思うとおりに研究できない状況になった。
|
今後の研究の推進方策 |
すでに「研究実績の概要」で記したとおり、本研究は当初予想していたほどの実りはないとの推察のもと、女性読者との関係性を考える対象を、大岡昇平文学から主に三島由紀夫文学へとシフトさせ、両者を比較する視座に立つことにした。今後の推進方策としても、引き続き、大岡と比較するかたちで三島の女性誌での仕事を調査し、従来顧みられることのなかった三島文学と女性読者の関係を浮き彫りにしていくつもりである。それにより、従来とは全く異なる三島由紀夫という作家の新たな側面が可視化されるはずである。 ただし、2016年度の学会で口頭発表を行った女性誌連載の大岡昇平『雌花』に関する考察 もできる限り早く論文化するつもりである。本年度は急に発生した介護の事情から論文化にはいたらなかったが、すでに本研究の補助事業期間の延長が認められているので、延長期間にあたる2018年度中に『雌花』論を投稿しようと考えている。
|