本研究は戦後派作家の主要長篇小説の創作過程の調査分析を踏まえ、ジャンルとしての戦後長篇小説を、日本文学、世界文学の大きな観点から位置付け直そうとするものである。 本年度の主な成果は以下のようである。第一に国内外の研究者延べ18名の発表者を得て、二回にわたり国際研究集会を開催した(①2017年7月29日、東京大学教養学部、②2018年3月29日~4月1日、UCLA)。本件企画時に考えていた日本、欧米、中南米の文学作品を対象とする研究だけでなく、アラブ系研究者によるエジプト文学、シリア文学などの研究も加わり、大幅に広がった研究射程の中に日本の戦後文学を位置付け直すことを試みた。 第二に、昨年度までの研究成果の書籍化として『津島佑子の世界』(井上隆史編、水声社、2017・7)、『三島由紀夫『豊饒の海』を読み直す―「もう一つの日本」を求めて』(井上隆史著、現代書館、2018・2)、『長篇小説の扉』(井上隆史編、弘学社、2018・3)を刊行した。特に『三島由紀夫『豊饒の海』を読み直す』においては、単なる作品研究を越えて、日本文学・文化、さらに世界文学に関する議論を深めることが出来た。 第三に、今後さらに研究を展開してゆく柱として、今回関わりをもった複数の英、仏研究者の著作の翻訳、研究批評を現在進めている。いずれも数年以内の刊行を目指している。 全体として、三島由紀夫、武田泰淳、大岡昇平、野間宏ら戦後作家がそれぞれ追求した問題の個別性と、それらがこんにちの我々に訴える世界文学的普遍性とを明るみに出すことに関して、大きな成果を得たと考えている。
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